「親父さんから聞いたの?」

智くんがポツリと呟いた。

「うんん…
まだ親父には聞いてない…
聞こうと思って電話したけど
親父が話す前に怖くなって俺が切っちゃったから…」

「そう…なんだ……」

「内緒にしてた訳じゃない…
本当に知らなかったんだ…
さっきあの絵を見て…」


「あの絵?」

「智くんの部屋で…
智くんが昔住んでた街の風景画…」

「あ……あれ…見たんだ」

「お母さんが…昔住んでた街だって…
それを見て気づいたんだ…
智くんは知らないかもしれないけど
智くんのお父さんが亡くなる前に寄ったのは
俺ん家のクリニック…
そして…
智君の家に線香を上げに行ったのは俺の親父…」



とうとう…言ってしまった…


もう…戻れない…




次に智くんの口から零れる言葉は
俺と親父をののしる言葉か…
嘆く言葉か…
罵詈雑言を浴びせられたって仕方がないんだ…



俺と智くんの間に沈黙の波が押し寄せて
重苦しく俺を飲み込んでいく…


智くんが大きく息を吐いて


「知ってたよ…」

え…?

静かな智くんの声に
驚いて顔を上げる。

目を丸くする俺に
智くんが微笑みながら

「知ってたんだ…
この前聞いたから」

「聞いたって…?」

「翔くんの親父さんから聞いたから」

「親父が…?」

「翔くんから俺の名前を聞いて
直ぐに分かったんだって。
ずっと気に掛けてくれてたみたいでさ…
嬉しかったよ。
翔くんには知られないようにしようと思ってたのに
気づかれちゃったんだ…
あの絵を見られたなんて…迂闊だったな」

智くんが眉毛を下げて「えへへ…」と笑った。



智くん…