俺が居なかったら死なずに済んだのに…

母さんだって死なずに済んだのに…




「翔くん…お母さんの命と引き換えに
貴方が産まれてきたんだから…
お母さんの事を…忘れちゃ駄目よ」

母さんの7回忌で俺の頭を撫でながら
紀子オバちゃんが呟いた。

僕の命と引き換えに?

母さんは…

僕のせいで死んだの?


僕を産んだせいで母さんが死んだの…?



写真しか知らない母さんの笑顔…

優しい笑顔が大好きだったのに…

温もりは知らないけど
写真に向かって今日の出来事を話すのが日課だった。

お友達のお母さんみたいに
頭を撫でてはくれないけど
でも大好きな僕の母さん…


なのに…

その時から母さんの笑顔を見るのが辛くなった。




ずっと心の奥底で澱となっていた想いが
乱されて拡散する

胸いっぱいに広がった苦い想い…

耐えきれずに感情のままに
吐き出したことも有ったけど…
親父が自分を責めて辛そうな顔をするから
その想いに囚われちゃいけないって
ある時期から心に蓋をしてきたのに…

智くんのお父さんも俺のせいで死んだと知って
俺の中に閉じ込めてきた想いが一気に溢れ出して
頭を掻きむしった。



ベッドに突っ伏して…

どれだけの時間が経ったんだろう…

部屋はすっかり夕闇に包まれていた。

堂々巡りの想いは出口が見つからないまま
同じところを行きつ戻りつして

結局は同じところに戻って来る…



アパート…


探さなきゃ…

もう一緒には暮らせないんだから…

智くんだって一人で住むとなったら
今の倍の家賃なんて払えないと思うし…


ニノに…

連絡しなくちゃ…