智くんが住んでいた街の風景と
俺が住んでいた街の風景がピタリと重なる。

ちょ…ちょっと待てよ?

って事は…?

智くんと俺って近所に住んでた…って事?

突然の事に頭の中が混乱する。

えっと…

智くんの住んでいた社宅は…多分あそこ。
俺の家からだと…ザックリ言うと斜め向かいくらいかな。
5階建ての四角いベージュの建物が何棟か建っていて
真ん中に小さな公園が在るんだ。

俺の家とは大きな道を挟んでいて
橋のたもとの郵便局の所まで行かないと
信号が無くて渡れないから、あんまり行った事は無かったけど。

そうか…

幹線道路のアッチとコッチだから学区も自治会も違うんだ…
って言うか、智くんは小二の時にお父さんが亡くなって
引っ越してるから元々俺と関わる事は無いんだな。
俺と智くんは二歳違い…って事は俺が小学校に入る前だもん。
でも…
もしかしたら近所のスーパーとかで
すれ違ったりした事も有ったのかも…

そんな事を考えたら嬉しくなって
智くんのお母さんに

「俺の家はこの近くでクリ……」

その時…

雷に打たれたような衝撃で足元がグラついた。


…近所のクリニックの先生が線香上げに来た…

…たまたま臨時休診だったんだって…



以前、何となく聞いた智くんの言葉が不意に蘇って
脳天を突き抜けた。

心臓がドキドキと音を立てて
息が苦しくなる…

手足が痺れて
指先がスーッと冷たくなった…

いや…まだそうと決まった訳じゃない…
俺の家と同じ様なクリニックなんて沢山あるし…
帰って親父に聞いてみないと…

でも…

 …翔くん  …翔くん  …翔くん?」

智くんのお母さんに名前を呼ばれてハッと我に返る。

「翔くん、どうかしたの?」

「あ…いや…」

智くんのお母さんが心配そうに眉間に皺を寄せて
俺の顔を覗き込む。

「あっ!俺、薬缶…火にかけっぱなし……だったかも!」

慌てて言い繕うが口が乾いて上手く言葉が出ない。

「あら大変っ!早く戻って!」

智くんのお母さんに急かされて慌てて靴を履くと
智くんの部屋を飛び出した。