焦げた魚を食べながら

「お前、何が得意だ?
苦手な事を一生懸命やるのも大事だが
得意な事があるなら、そっちをやった方がいいだろう」

すっかりしょぼくれて
俯いたまま五粒ほどの米を箸に載せて口に運ぶ翔が

「分かんない…いっつも怒られてたから…」

そうか…

「気にするな…
まだ得意な事が見つからないだけだ。
おめぇにはおめぇに合った仕事がある。
大人になるまでに見つけりゃいいんだ…」

翔が弾かれた様に顔を上げると

「いいの?」

「何が?」

「役立たずなのに…要らないって言わないの?」

役立たずで…要らない…か…
ずっとそう言われ続けてきたのか…
いつも自信なさそうにビクビクしている翔が不憫で

「言わねぇよ…俺が勝手に攫って来たんだから。
植木屋も飯炊きも無理なら他を探せばいい」

そう言って塩っ気のない汁を飲みほすと
驚いた顔のまま俺を見つめていた翔が

「うんっ!」

心底嬉しそうな笑顔を見せた。



「じゃぁとりあえずは茂爺さんの手伝いでもしてやれ。
茂爺さんも歳だから薪を運んだりするのも難儀だろう。
ちびっこいお前でも、ちったぁ役に立つ」

「俺ね、力仕事は大丈夫だよ!」

キラキラと目を輝かせて
小さくて痩せっぽっちの胸を張る。

「そうか?そんなに細っこい癖に?」

「直ぐにでっかくなるよ!
そしたら薪だって何束も持てるようになるから!」

「そうか…じゃぁしっかり喰え」

「うんっ!」

さっきまでしょぼくれていた翔が
でっかい口を開けて飯を詰め込んで
頬を膨らませるから

「慌てて食うと喉に詰まるぞ」

言ったそばから

「…っ!…〇…☆彡…@※…▽¨…」

「ほら…言わんこっちゃない…」

冷めた茶を差し出すと胸を叩きながら慌てて流し込んで…
その様子が可笑しくて、みんなが大きな声で笑った。



「おいチビ!ちょっと茶を持って来てくんな」

湯屋の二階で将棋を指していた大工の達也に声を掛けられて

「はいよっ!」

と大きく返事をすると熱い茶を入れた湯呑と
饅頭を盆にのせて達也のひざ元に置く。

「おぉ…ありがとよ」

将棋盤を睨んだまま達也が懐に手を突っ込んで巾着を取り出すと
盆の上に視線を落とす。

「ん?饅頭は頼んでねぇけどな」

「和兄が達也さんは酒を飲まない代わりに
甘いに目が無いって言ってたから
そろそろ饅頭が喰いたくなる頃かなって思って…」

「そりゃそうだが…」

「…要らないなら下げるけど…」

上目遣いで見ると、達也が

「こりゃ参ったな…商売上手な餓鬼だ…」

と項に手を当てて声をあげて笑うと

「じゃぁ折角だ…饅頭も貰っとくよ」

そう言って四文銭を翔の手の平に載せると

「釣りは取っときな」

気前よく言って饅頭にかぶり付いた。