大晦日は紅白のリハで一日中缶詰めになる。

司会の相葉さん以外の四人の楽屋にマネージャーが来て
俺を部屋の隅に呼び出した。

手には週刊誌?のゲラらしき物…

「年明け早々に出るそうです…」

深刻な顔で俺に手渡す。

そこには

『嵐!櫻井翔・年明けに結婚か?』

人目を惹く衝撃的な見出し。

肌理の粗い写真だが、一目で俺と分かる男と
俺の後ろを歩く俯いて顔を隠した華奢なシルエット…

いつだ?
いつ撮られたんだろう…?
半袖の黒いTシャツを着ているところを見ると夏…

夏?
…あぁ…まだ暑かったけど
これは確か9月の終わり頃だったはず…
掛かりっきりだった仕事が一段落したからって
久しぶりに一緒に飯を食いに行ったんだ。

もう一度写真を見る。

顔は写っていない…

誤魔化そうと思えば誤魔化せるか…


ネタがない時に必ず出るスキャンダル。

事務所もマネージャーも慣れたもので
変にもみ消そうとすれば疑われて
執拗に付け回される事が分かっているから
いつもは当の本人に一応の報告があるだけで 完全黙示を貫く方針だが
今回はかなり有力な情報を得ているらしく
ちょっとやそっとじゃ収まりそうもないと言う。

囲み取材だとしても俺がハッキリと否定するしかないだろう…と。



でも…



「ただ一緒に食事に行っただけです」

「他のスタッフも一緒でした」

「友人の一人です」

スキャンダルが出る度に
その言葉でどれほど傷つけてきた事だろう。


以前、番組で対談した女性芸人の言葉が頭をかすめる。

「本当のファンだったら、結婚して幸せになって欲しいと思ってる」

「貴方が決めた事だったらファンは必ずついてくる」


一生コソコソと日陰の関係を続けるつもりは無かった…
でも…
嵐と言う枠の中で活動している俺は
自分の都合だけを考える訳にはいかない。
俺が結婚を発表した途端に下降する人気…
俺のファンだけならまだしも嵐全体のイメージが
悪化する可能性だって否定できないんだ。


いずれ結婚するつもりでいる事は事務所には伝えてある。
あとは時期だけ…


「みんなに…相談してもいいかな…」

ゲラを見つめながら沈黙していた俺の口から飛び出した言葉に
マネージャーが弾かれた様に俺の顔を見た。

「それって…」

「長野くんみたいに…祝福して貰う事なんて無理…なのかな…?」

「それは…」

分かっている…簡単な事じゃないって。
でも…もう傷つけたくないんだ。
俺のせいで悲しい想いなんてして欲しくない。

俺が一時的な感情で言っているわけではないと
知っているマネージャーが

「じゃぁ…櫻井さんはメンバーと話し合ってみて下さい。
私は事務所と他のマネと相談してみますから…」


新年早々に週刊誌は発売される。
その前に手を打たないと…
時間はない。

マネージャーと深刻そうな顔で話し合っている俺を
少し離れた場所から智くんが心配そうな顔で見ていた。

マネージャーが部屋を出て行って四人だけになると

「翔くん…どうかした?」

智くんが心配そうに俺の顔を見ると、他の二人も顔を上げた。

「写真を…撮られたんだ…」

みんなそれぞれ経験があるから、俺のその一言で全てを悟った。

「基本、無視ですよね?」

先日紙面を騒がせたニノが苦々しげに吐き捨てた。

「いや…俺…言おうかと思って…」

「えっ?」

松潤がビックリした顔をする。

「言うって…?」

智くんも怯えた顔をした。

「結婚…するって」

三人が同時に息を呑んだ。


☆*:.。. 続 .。.:*☆


※少し長めの前後編にしました