「…反対されたんですか?」

「反対もなにも…
意気地なしの私は心に決めた人がいるって
親に言えなかったんですよ」

当時の自分を思い出したのか自嘲気味に笑う。

「私の父親も中学で校長をしてましてね。
息子の私が言うのもなんですが人格者でした。
私は父を尊敬していましたから…父の言うことは絶対でした。

父の言うことに間違いは無い…

父の選んだ相手も…

父は私の意志を尊重してくれていましたから
私に好きな人がいると分かっていれば反対はしなかったと思います。
でも…私は言えなかった…
父の選んだ道から外れるのが怖かったのです。

だから…私が東京に転勤が決まった時に…
彼女に着いてきて欲しいと言えませんでした。
きっと彼女はそんな私に失望したのでしょう…
別れの時も何も言いませんでした」

「じゃぁ…そのまま?」

「ええ…その時の見合いの相手が今の家内です」

島に来て、この小学校に勤務するようになってから
校長の家に招かれた事も一度や二度じゃない。
小さな島の小さな学校…
仕事とプライベートをキッチリ分けていた東京都は違って
島の人間関係はとても親密だ。

校長の奥さんも以前は小学校の先生をしていたと言うだけあって
ハキハキと元気よく喋り、かと言って出しゃばらない。
温厚な校長と明るい笑顔の奥さん…
お似合いの夫婦だと思っていたのに…