身を固めるって…

「私の友人が都内で教師をしているんですが
その娘さんが隣の島で同じく教師をしてましてね…
東京生まれ、東京育ちなのに志があって
島での勤務を希望したそうなんですよ。
櫻井先生は教師としての経験はまだ浅いですけど
教師として将来有望!人物も申し分ない。
お似合いだと思いましてね…
櫻井先生の事を話したら友人もすっかりその気になったんで
先日櫻先生にお話しさせて貰ったんですよ」


翔が…

結婚…?

まさか…



頭の中が真空になって
校長先生の言葉が
思考の表面を滑っていく…

「たまたまその娘さんを知っている知人がいましてね…
その知人に聞いたところ、お世辞じゃ無く
素晴らしい娘さんだと言うので…
写真をね…櫻井先生にもお渡ししましたが
どうでしょうかね…?
なんとか大野先生からも後押ししてくださいよ」

そして一瞬躊躇うように言葉を切った後

「まぁ…余計な事ですけどね…
どこにでも口さがない人達は居るもので…
あ、いや…くだらない事ですよ…一部の人がね…」

口さがない人達…?

一部の人がって…?

「まぁそんなことは関係なしに
櫻井先生にいずれ結婚をと意志が有るのなら
早く身を固めた方がいい…」

校長先生は自分の言葉に自分で「うんうん」と頷いて
動揺を隠すのが精いっぱいで何も言えずにいる俺に

「もしかして…もう決まった人がいらっしゃるとか…?」

俺の顔を覗き込む。

「あ…いや…それは聞いた事がありませんが…」

口の中が乾いて…
声が掠れる。

「その娘さんも島で勤務しているとは言え
東京の人ですからね…
櫻井先生も東京の方ですから話しも合うと思うんですよ。
櫻井先生が決まったら、次は大野先生ですな。
大野先生は…」

いつまでも続く校長先生の話しに半分うわの空で相槌を打って…
翔を待たずに帰ってきた。