ダメって…

なん…で…?


「智は東京には行かせない…」

「な、なんで!だって俺、翔と…」

喜んでくれるとばかり思っていたのに…

思いがけない翔の言葉に膝立ちのままテーブルの右側を回って
翔の左腕に縋り付く。

「だって…智が東京に行ったらさ…

俺が……島で一人ぼっちになっちゃうじゃん!」


え…?


「智のトコに来たんだ。
俺の寝る場所あるよね?
あ…でもいっか…一緒に寝ればいいんだから…」

「なに…言ってんの…?」

「これからはずっと一緒だよ…」

「だって…仕事…」

「ははは…辞めちゃった」

「辞めちゃ…って!何言ってんの?!」

「あ…でも大丈夫!ちゃんと次のあてはあるから」

「…バカじゃねーの?!
やり甲斐のある仕事じゃなかったのかよ?!
そんな簡単に捨てられるのかよ?!」

翔が俺の目を瞬きもしないで見つめながら

「簡単じゃ…ないよ…
ちゃんと考えて…考えて…ずっと考えてた。
でも…どれだけ考えても、他の答えが
見つからなかったんだ。

智が居ないと…
何のために仕事してんだか分からないんだ。
今、俺がやってるこれは…
何の意味があるんだろうって…
分からなくなった。

智が居ないとダメなんだ。

智と一緒じゃないと…生きてる気がしないんだ…」

翔…

「翔が…そんなにバカだったなんて知らなかった…
ホントにバカだ…翔だったら、今の出版社で
出世だって間違いなかったはずなのに…
俺のために…人生棒に振っちゃって…」

「そんなにバカバカ言うなよ…
それに…棒に振ってなんかない…
俺の人生を俺の足で歩くために来たんだ。
…智は…喜んでくれないの?
俺が来て…迷惑だった?」

翔が子供の頃と同じ顔で口を尖らせて拗ねる。

翔……

「…迷惑なはず…ないじゃん」

「嬉しく…ないの?」

「……。」

「…ねぇ…」

「…嬉しい…よ」

「じゃぁ…笑ってよ…」

笑ってよって言われたら…涙が溢れて止まらなくなった。

「笑ってって…言ったのに…」

翔の目尻が愛おしそうに下がって
手の平で俺の頬を包む。
親指で涙をぬぐって…震える唇で口付けをくれた。

ちょっと…しょっぱい…