立ち上がって…

智の後ろに立つ。

食器を洗っている智の脇腹から腕を回して抱きしめると

智が一瞬息を呑んで…動かない。

右側の肩に顎を乗せて

「智…ごめん…俺…」

「え…?」

「もうちょっと…待ってて…」

「なに…が?」

「俺 … ケジメつけたいから…
ちゃんとケジメをつけてから智と始めたいから…」

俯いて水の流れを見ていた智が腕を伸ばして水を止める。

少しの沈黙の後…

「…それって…彼女?」

「…うん…
あ、でも振られたんだ…
智に会う前に…
俺があんまりアッサリしてるから…
自分の事をあんまり好きじゃないんだろうって言われて…

俺…
その時は何を言われたんだかよく分からなくて…
返事が出来なかったんだ。
それ以来、彼女と会ってないから…」

俯いて一点を見つめていた智が小さな声で

「当たり前だよな…翔に彼女が居たって…
翔は…男の俺から見てもカッコいいし…」

「言ったろ?振られたって…」

「今ならまだ間に合うんじゃないの?
よりを戻すの…俺なんかより女の子の方が…」

「それ以上言ったら怒るよ?」

「でも…」

「言ったろ?俺は智がいいの!
智が好きなんだよ!
ずっと智が好きだったんだから!
好きなのは智だけなん…」

「わ、分かったよ…
あんまり言うなよ…
恥ずかしいじゃんか…」

耳まで赤くなってる智が可愛くて
智のお腹で組んでる腕に力を入れて
ギュッと抱きしめる。

呆れたように軽く笑った智が

「バカだな…翔は…
そんな事…
言わなきゃ分かんなかったのに…」

「だって…嘘ついてるみたいで嫌だったんだよ…」

智がフワッと笑って

「翔は…変わらないな…
真面目で…真っ直ぐで…曲がった事が大嫌い…」

智の手が…

俺の手に重なった…