小さな旅館の前で智と向かい合う。

「ごめん…
明日は…見送りに行けない…漁があるから…」

「そっか…こっちこそごめん。
明日 早いのに…こんな時間まで付き合わせちゃって…」

「いや…翔に会えて…良かったよ。
会えて嬉しかった…」

「俺も…まさか智に会えるなんて思ってなかった…
来て良かったよ。
また来るから…今度はもう少し長く…休みとって来るよ。」

名残惜しくて…なかなか「おやすみ」って言えない…

智も俯いたまま黙ってる…

でも…漁に出るって…凄い早い時間なんだよな。
早く寝なきゃじゃん…

まだ一緒にいたい気持ちを振り切って

「連絡するね。LINEするから…
じゃぁ…おやすみ…」

ハッとしたように顔を上げた智が

「…うん。おやすみ…」

一瞬…何か言いたげな顔をして…

でも…何も言わずに「じゃぁ」と片手を上げて
背中を向ける。

月明かりが…

いつまでもいつまでも智の姿をとらえて…

少し猫背の後ろ姿が…

やがて月に溶けてゆく…



翌朝…

船に乗る前に港に寄った。

漁から戻ってきた船と人でごった返していて
昨日の昼間ののどかさとは打って変わって
活気があふれていた。

智は……

余所者の俺が入って行ける雰囲気ではなく
遠巻きに目で追って探してみるけど…

見つけて声をかけたところで邪魔になるだけだもんな…

後ろ髪を引かれる思いで港を後にして桟橋に向かった。