福岡市は、下水処理施設で使う重油7万ℓの購入先を決める入札で、市内の石油販売業者が入札額を誤り、本来なら約670万円程度のところを96円で応札、落札してしまったと発表。市は再入札を行う予定で、誤入札した業者に2か月間の競争入札停止の処分をくだしました。多分96とは思わず96と思ってしまったのかもしれません。しかし、それでも7分の1!福岡市の入札システムには、『桁違いに安すぎる、これは何かの間違えではないか』というチェックロジックがなかったのか・・・

市は『金額の確認を徹底してほしい』としていますが、そんなことでは再発は防げないと思わなければいけない。そもそも、この種の間違えは業界業種を問わず、珍しくなく発生していることを他山の石としてこなかった市の緊張感のなさが問題と自覚しなければなりません。

 

勘違い入札をしてしまったこの業者は、入札を1ℓ当たりの価格と思って96円としてしまったということですが、これと全く同じことが株取引で起きたのがみずほ証券でした。みずほ証券の男性担当者が「1株を61万円で売り」とすべきところを「1円で61万株売り」と誤ってコンピュータに入力してしまったことによって起きた事件でした。この様な事態を避けるためにシステムには、意図的かそうでないかという確認(警告)メッセージを画面上に表示するチェック機能が組み込まれていました。しかし、あろうことか担当者はこれを無視して注文してしまったというヒューマンエラーの典型!

 

異常な売り買いが発生したことから担当者は誤りに気付き、1分25秒後に取消し注文を送ったものの、東京証券取引所のシステムのバグのため、この取り消し注文を受け付けられなかったという不運。東京証券取引所と直結した売買システムでも取り消そうとしたものの、こちらも失敗。東京証券取引所に直接電話連絡して注文の取り消しを依頼したが、東京証券取引所側はあくまでもみずほ証券側から手続きを取るように要求・・・という事態に。みずほ証券が全発注量を反対売買によって買い戻す対抗策を講じて何とか収まったものの、9万6236株の買い注文については相殺しきれず、そのまま売買が成立してしまい、みずほ証券の損害は約400億円!投げられてしまった賽は元に戻らず、大損害に!

 

既述のとおり発端は警告メッセージを無視した証券マンにあります。さて、ここで問題です。証券マンが警告メッセージを無視してしまったのは、いつも多種多様な警告メッセージが表示されるので『またか!』と思ってしまったことでした。警告メッセージを『うるさい』と思ってしまうような何かかの操作で『それで良いのか』と頻繁に聞いて来る微に入り細に穿ったチェックが逆効果になってしまったようです。

 

私は、システム設計時に最も注意を払うのが画面設計です。オフィスの生産性に直接関係するからですが、画面のレイアウト、画面内の操作とそれに伴うチェック、画面遷移が業務の流れ、作業の連続性に合っているかを考えながら設計します。特に生命財産に関わるシステムはそれが必要です。みずほ証券の場合は財産ですが、病院システムの場合は生命に関わります。ここで気を付けなければならないのは、みずほ証券の担当者が『またか!』、『またいつものメッセージか』、『面倒くさい』と思ってしまうような軽重問わず警告メッセージ、確認メッセージを出すことです。

 

表示される警告メッセージ、確認メッセージだけではなく、応答方法も重要です。単純に『入力を確認してください』では、直前の操作に対してだと思いますが、何を確認するのかがもう少し具体的に書かれている必要があります。特に、リスクを伴う以下のような場合です。


このことにより、誤操作によって患者が危険な状態になることを防ぐことができます。実際に患者が死亡する医療事故が起きましたが、上述のような確認メッセージが表示されていれば防げた事故だったと思います。

なお、応答が『はい/いいえ』、『Yes/No』、『OK/NG』のような紋切り型は誤操作を誘発します。そうではなく、『やり直し/承知』、『再確認/承知』など、具体的な内容を示す言葉で選択させる方が間違いを少なくします。私の警告メッセージ、確認メッセージは全てこれです。なお、『承知』とは、承知のうえでやっていますという意味です。

 

では、どこまでのチェックが必要でしょうか?私のやってきたのは、業務分析をするだけではなく、現場の皆さんに聞いて回ることでした。それもベテラン、中堅、新人を対象に複数人にヒアリングします。なお且つ、つぶさに現場を観察することです。これによって、必要十分な警告メッセージ、確認メッセージを表示する条件を決めます。この時のメッセージ、応答方法で注意するのは上述のとおりです。

 

身近な例では・・・

というものがありました。1箱単位の発注を個数と間違えて発注して大量の納品に慌てたとか、1ダース単位を本数と間違えたという似たような単位間違いが珍しくなく発生しています。私の場合はいつもとは違う数字が入力された場合には、確認メッセージを表示するようにしました。

 

以上、皆さまの参考になれば幸いです。

 

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