このブログでは、猫も杓子も唱える付和雷同のDXへの批判を幾度となく書いてきました。先日、IT系情報サイトが『DXの足かせになるレガシーシステム』などというタイトルの記事をアップしてきたので、いささか食傷気味ですが、この話題を取上げることにしました。

この種の記事に共通しているのは、書いた記者がメインフレーム時代から続く情報システムの歴史を知らず、汗をかいてシステムを作った経験もなく、あちこちから聞いた情報を机上で纏めているということです。その原稿をチェックできる知識経験を持った者が編集部にもいないのでしょう、そのまま記事になってしまうようです。全国紙でもこの方面では同じようなもので、過去に情けない記事に出くわしたことがあります。それは・・・病院の改善事例を紹介した記事に関するものです。

記事下段左左側に黒くリバースしている❝入院時の待ち時間(~説明・術前処置)、163分から26分に❞となっている部分があります。病院コンサルティングを現場に入り込んで12年やってきた経験から、直感的にオカシイと思いました。簡単に分かるのは、入院時の待ち時間という言葉です。字づらだけ見ると、入院当日に来院してから病室に入るまでのことなのか?と思いますが、予定入院なのに163分も待たされるはずがありません。しかも、記事上段のタイトルには入院待ち時間ではなく手術待ち時間が163分⇒26分と書いてあります。この時点で書いた記者、記事をチェックする編集・整理部に業務知識がないことが分かります。もう一つのオカシイと感じたのは、時間短縮の要因を❝針や注射器の置き方を統一した❞としたことです。one of themの要因とは思いますが、そんな程度のことで劇的な改善がないことは現場を知っている者には自明です。しかし、中身は分からないものの改善によって2時間半近くも短縮されたと感心してしまうのが一般的です。

 

その様な記者が書いた❝レガシーシステムがDX化を阻害している❞という記事になので、読む気にはなりませんが、DXDXと叫ばれている今なので、どんなことを書いているのかちょっとチエックしようと思った次第です。彼が引っ張り出してきた情報に、IPA(情報処理推進機構)が発表したDX白書2023に、レガシーシステムが半分以上残っている企業は41.2%と書いてあるそうです。おそらくメインフレーム時代から営々と機能の改廃・変更・追加されてきた基幹システムと周辺システムから成るレガシーシステムがどんなものなのか、機能的にどこまでカバーしているのかまで踏み込んで調べていないのでしょう。彼らは、今はやりのモダナイゼーション(modernization)とかいう流れを作りたいのかもしれません。システム開発の実務に従事したことがない彼らは、雰囲気作り、風潮作り、ブームを起こして一儲けしたいだけ?と思ってしまいますが、確固たる方針(ISA:information system architecture)を持っていれば、不必要・無定見にブームに踊らされることがありません

 

メインフレーム全盛時に、日立、IBMと市場を3分した富士通は、同社製のメインフレームが700台も残っているそうです。

現役で使われているとはいえ、既に生産が終わっているメーンフレームを700台も保守し続けるための要員、部品の確保をするのは負担なので、オープン系に移行して欲しいというのが富士通側の本音でしょう。しかし、おいそれとマイグレーションできない事情があります。それは、メインフレーム時代から営々と機能の改廃・変更・追加されてきた基幹システムと周辺システムから成るレガシーシステム支障なく新インフラ環境で稼働させる確信が持てないからです。

 

どうしてでしょう?それは、現役で運用されているシステムの最新の仕様書がないからです。プログラムと仕様書の内容とが完全に一致していなけばなりませんが、タイムラグなく抜け漏れなく、最新の状態で同期がとれている自信がないからです。私がOSの開発をしていた時には、複数人、複数部署による何段階もの確認を経て完全に一致させていましたが、アプリケーションが動く地面(インフラ)であるOSの性格上、そうでなければリリースできません。一方、一般企業での情報システムで、そこまで厳密に同期をとっているところは少ないと思います。そう思うのは、多くの手間を食い、神経をすり減らすからです。しかし、基幹システム+関連する周辺システムが、当該企業にとっては日々の企業活動になくてはならない機能を提供していることを考えれば、当該企業にとってはOSのような位置づけになるはずです。これを考えれば、手間がかかる、神経を使うことが免罪符にはならないことが分かるでしょう。

 

しかし、ここまで考察しているCIOは少なく、CEO至っては限りなくゼロに近いのではないかと思います。そこに来てDXDXの大合唱。レガシーシステムだからDXが推進できない、レガシーシステムをマイグレーションしてモダナイズしていればDX推進ができるという単純な結びつけをするIT雑誌の軽薄な記事に踊らされてはいけません。

 

ISAを再度勉強し、基幹システム+関連する周辺システムが持っている情報を洗い出し、適宜それを参照・利用する環境を整え、それを利活用するためのスキル教育をOJTでやってみましょう。レガシーシステムが問題ではなく、残っていても問題なく、DXでいうところの狙いは達成できます。

 

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