都庁の管理職教育をやっていた時、時々システム導入検討委員を依頼されることがありました。そのなかの一つに、都営住宅の管理システムの刷新につき、教え子が配属されていた住宅局(当時)からアドバイスを求められたことがあります。
ベンダはF社でしたが、クラアントサーバ(CS)方式のシステムを提案してきました。当時はWeb上で動くシステムが多数出てきていた時期でもあり、同社の社長がホームページで『これからはWebの時代!』と宣言していましたが、提案はクラアントサーバ方式。どうしてなのか探りを入れると背景が分かってきました。
クラアントサーバ方式で構築された北海道のある市の市営住宅のシステムをそのまま流用しようとしたのです。既に出来上がっているものを流用した方が楽だし、手間がかからず、利益も出ると踏んだのでしょう。住宅局の関係者を北海道まで連れて行って見学させたりもしていましたが、良い関係を作って自社の提案に引き込もうという作戦だったようです。しかし、住宅管理システムに要求される機能は簡単なので、当時のWeb環境でも機能的にも十分構築可能でした。プロポーザルに応札させ、その中から条件に合うものを選択すれば良いので、CS方式でもWeb方式でも、こちら側としては構いません。しかし、F社に応札させて落札させるという暗黙の了解があったようで、同社はWebで動かすことの懸念、危険性を挙げて譲りません。うるさい私を封じ込めたい彼らは、実務に疎いコンサルタントとして見くびったのか『Web型システムにした場合の疑問点』とする質問をしてきました。それに対する私の回答を紹介します。
~~~原文のまま~~~
【回答に先だって】
この質問は、CS型システム・Web型システム両方に当てはまる質問。どうして『Web型システムにした場合の疑問点』として質問が来るのか分からない。CSにした場合は、この質問事項はクリアされているのか?また、正確に回答するには情報が不足しているものもあるが、その場合は一般的に言える回答となる。
《ネットワークトラフィックに関する事項》
Q1:ネットワークの構成にもよりますが、サーバー側の受け口を多めに用意しなくて はならないと思いますが、イニシャルコスト等が高くならないか。
A1:Webだからではなく、全く同じことがCSにも言えます。待ち行列を少なくするために受け口(回線数)を用意する=金が掛かるということはないでしょう。CSで行けると判断しているならなおさらです。同じことです。しかも、1500件/年程度のトラフィックは多くないどころか、極めて少ない。但し、これが1時間の間にという条件や集中した場合でもレスポンスは1秒以下で、等という条件がつけば、多少頭を使う必要はあります。それでも、この程度なら全く問題ありません。昔と違うのは、回線は太く安くなっているということと、通信系ソフトは格段に進歩しているということです。
Q2:サーバ設置場所の通信障害、通信機器故障等の対応(全事務所のシステム停止)を考慮する必要がありますが、イニシャルコスト等が高くならないか。
A2:これもCSでに同じことが言えます。CSでクリアしているならWebでも同様です。本部と各事務所を専用回線で接続することになっているようですが、回線障害は当然考慮する必要があります。しかし実際問題として発生率はほぼ0%です。今やネットワークを使用しないシステムは存在しませんが、障害発生率は極めて低く、また発生したとしても瞬時もしくは長くて数時間で回復し、長時間の業務停止に追い込まれることはありません。もっとも、本元のNTTなど使っているキャリアの設備がダウンしたらお手上げです。しかしこれはCSも同じことです。
Q3:システム使用中は回線を使用し続けるため、システムを使用したままの状態にしたクライアントがあるとネットワークに影響が出ることがないか。
A3:Webシステムでは、クライアントとサーバ(Webでもこう表現します)とのやり取りは、検索、更新、参照など“必要に応じて通信”します。一方、CSシステムは、クライアント起動から終了まで“常に通信”を行います(TCP/IPの特徴)。つまり、使う、使わないに関わらず、回線を使用することになります。従って、CSシステムにWANは適用できず、普通は各拠点・事務所毎にサーバを置くしかありません。それにより当然データ収集の機能(システム)が別途必要になります。以上、明らかにWebに分があります。
《性能に関する事項》
○予備知識:
性能は複合事象で、ネックの箇所は色々なところに散在しています。分かり易いのは回線の太さですが、CPU、メモリ、ディスク入出力、同時に動く他のシステムとのリソース競合等々です。予算があれば解決するものと、頭を使うのとがありますが、設計能力、センスに依存することの方が多いのが性能です。
Q1:入力時、常に回線接続されて入力画面の表示を行うため入力操作のTAT(ターン・アランド・タイム)が長くなるおそれがないか。積算は業務のピーク性が高いため、各事務所のクライアントから業務処理が入ると 回線ネックが発生しTATの劣化を招かないか。
A1:程度問題ですが、今の使われ方程度なら問題ありません。
事例( LAN環境での数値 )
同時接続数(台) |
サーバ数(台) |
TAT(秒) |
1000 |
3 |
3.5 |
2000 |
6 |
3.3 |
使用する回線とやり取りするデータ量にもよりますが、上記数字が大幅に大きくなる事はありません。又、画面ですが、常にWebの画面をビットマップにし通信を行うのではなく、必要なデータのみをやり取りし画面を生成します。すなわち、画像データでもない限り、通信が遅くなり、Web型にした場合のTATがCS型のそれに比べ極端に遅いと言う事はありません。但し、ファイルも持ち方、アプリケーションの作り方など、設計能力の問題はあります。また、大容量の画像のやり取りをすることが前提なら、CSでも同じ問題が起きるでしょう。その場合は、回線を太くすることを勧めます。ただし、過去のやり方がフロッピでやり取りされていたということなので、それほど大量のデータがやり取りされるとは感じませんが・・・。
Q2:専用線の太さを太くすると維持管理の費用がかかり過ぎるのではありませんか。 又、ライフサイクルコストについても具体的な検証をする必要があるのではないか。
A2:CSも全く同じことが言えます。CSで解決しているなら、Webも問題ありません。しかし、CSではここまで議論しているのでしょうか?NTTのデジタルアクセスと言う安価な回線があり、参考として紹介します。また、ADSL技術等の普及でより安価で高速、高信頼性の回線が提供されていくはずです。
デジタルアクセス128(回線速度:128Kビット/秒)の場合の価格表(当時)
本支庁の別 |
価 格 |
○○-△△事務所 |
41000円/月 |
○○-□□事務所 |
67000円/月 |
○○-□○事務所 |
67000円/月 |
上記金額は、NTTの専用線サービスを参照した金額ですが、これ以外にもフレームリレー等の安価な回線も考慮し、ベンダの良心に基づいて最適な通信環境が提案されると思います。
これらの回答に対して当該ベンダは何も言えず・・・SIベンダは専門的な話を持ち出し、素人を黙らせる方法をとってくることの一端を紹介しましたが、今回は私が素人ではなかったため、残念ながらその目論見はハズレました。これ以外にもたくさんありますが、今日はこれまでにします。
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