NHKに映像の世紀というドキュメンタリ番組があり、興味を引くタイトルがあると見ています。先日、ソ連製のカラニシコフ銃(AK47)についてやるというので見ました。頑丈にできていてラフに扱っても壊れずに使えるカラニシコフ銃が、精巧にできている米国のM16ライフルより実戦に強いという話を聞いていたからです。

ベトナム戦争で、圧倒的な軍事力を誇る米国を破った北ベトナム、ベトコン(南ベトナム民族解放戦線)が勝利の理由の一つに挙げたのが高温多湿、湿地や泥沼が広がるジャングルでも故障なく機能するAK47。

それに対し、重量/M16⇒3.5kg、AK47⇒4.5kg、射程/M16⇒500m、AK47⇒400mという性能で、接近戦では有利なはずのM16。しかし、精緻(華奢?)に作られたM16は高温多湿、湿地や泥沼が広がるジャングルでの戦いとなったベトナムの戦場で頻繁に故障。

どうやら、設計者の実戦経験の差が設計思想に違いをもたらしたようです。1938年に赤軍に入隊以降、独ソ戦まで様々な戦闘に従軍、自らも負傷した経験を持っているAK47を設計したカラニシコフはの設計方針は・・・

これに対し、M16設計者のユージン・ストーナは、第2次世界大戦で海兵隊として参加したものの、カラニシコフほど戦闘の第一線で敵と銃火を交えていなかったようです。彼は、戦後航空機会社の銃器開発部門にいましたが、兵器製造会社に移り銃の設計をしている中でM16を設計しました。

カラニシコフの設計方針は部品一つ一つを宙に浮いているかのように設計したそうですが、宙に浮いているかのように設計したことで、各部のクリアランスが大きくなり、衝撃/塵埃に強くなりました。それは命中精度という点では問題がありましたが、戦場は射撃大会ではなく、連射して制圧するというこの種の兵器の趣旨から言って、故障せず撃ち続けられるというAK47は過酷な戦場でその性能機能を発揮できました。情報システムで言えば、故障に強い冗長設計でしょう。

 

一方、M16を設計したユージン・ストーナは、戦場で役立つのは持ちやすい軽量性と有効射程の長さが重要であるという設計思想を持ち、銃の部品にアルミ合金、グラスファイバを使い、これを実現しました。しかし市街戦ならともかく、高温多湿、泥濘地、沼などが広がるベトナムの戦場では、その性能が発揮できず、それどころか頻発する故障を直しているところを敵に狙撃されてしまう隙を与えてしまいました。

この不評に対し、設計者のユージン・ストーナは、射撃する時には、銃に障害物があってはいけない。特に水が入っていない状態にしなければならないとし、射撃の条件を示しました。

〇Mー16の重大な問題は、完全に兵士の不注意によるものだ
〇銃口を下に向け、薬室の弾丸をずらして空気が入るようにする
〇そうすれば、水は完全に排出される
〇この方法でのみ、安全に発砲することができる

兵士はこれらの注意を無視し、銃から水を抜かずに引き金を引いてしまった結果、銃が壊れ、射撃しようとしたが弾が出なかったのだとして不評を受け付けませんでした。

水が入っていない状態にしなければならない条件・・・彼はベトナムがどんな戦場なのかを理解していなかったのか、したくなかったのか?壊れにくく作るということ、過酷な条件下でも弾丸を発射し続けることを優先したAK47とは随分違います。


高機能・高性能は誰しも目指しあこがれるものですが、生死を分ける戦場では、生き残るために撃ちたい時に引き金を引けば弾が発射されることが最も重要です。大げさにいえば、多くの戦場でそれを実感していたカラニシコフと、そうではないユージン・ストーナとの設計思想の違いが、ベトナム戦争の勝敗を分けたのかもしれません。

 

以上紹介してきたことは、情報システムの設計にも言えます。現場を知っている人が設計する仕様と、お座なりのヒアリングで仕様を作る人との違いです。作業実態を踏まえた画面レイアウト、画面遷移、実際の操作、メッセージを含め、前者は使いやすく、後者は使いずらいユーザインターフェイスになります。後者の典型は現場の作業を踏まえないお仕着せの業務パッケージです。営業の常套句は『使っているうちに慣れます』。使いづらさを慣れでカバーするという上から目線で作られたユーザインターフェイスに慣れてはいけません。慣れの中にミスの種が入っていることに気が付かなければなりません。システム設計の元になるシステムの仕様、これは現場の実態を丁寧に観察し、経営層から現場まで十分なヒアリングを行って作らなければならず、慣れでカバーするような仕様を作ってはいけません。

 

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