人手不足はIT業界だけではありませんが、DXブームでシステム開発需要が膨れ、人手が足りなくなっているというニュースが聞こえてきます。2025年の崖とか壁という人手不足に起因する問題が起き、12兆円もの損失を招くそうです。煽るのは、IT系メディアだけではなく経済誌も特集を組んで報じていますが、ソフトウェア技術者不足によるクライシスが叫ばれ、対策を怠れば34.6兆円もの損失を招くとした2000年問題は、結局なにも起きませんでした。多分これと同じです。気が付いたところ、身の回りのことからシステムに載せるという安易なきっかけで作れば幾らでもあり、収拾がつきません。まずは組織全体のシステム整備計画(ISA:information system architecture)を作り、それに則って順次時間と予算をかけてシステム作りをしていくようにしましょう。

 

組織全体はISAに従って進めるべきですが、昔のメインフレーム時代と違って、今は一人一台のパソコンがあり、日常的にパソコンに触れている環境にあることから、一定のコンピュータリテラシを持っているスタッフがいる時代です。大上段に振りかぶる必要のない彼らの業務守備範囲で、利用規則を作ったうえでサーバ上のデータを参照/加工して使ってもらうようにすれば、システム部門に負荷をかけずに部門内のIT化が進みます。20年以上前ですが、日経コンピュータの情報システム大賞を受賞したシステムでは、日常的に使うデータをExcelに落とし、Excelを教えた現場スタッフがそれを使って、作業効率向上のため、あるいは作業状況把握のために自由に加工できるようにしました。この発想を拡大し、現場スタッフに基本リテラシを教え、現場SEとして育てながら仮想情報システム部門として大きなプロジェクトを進めたことがあります。病院の例ですが、今日はこれを紹介します。

 

個人医院はもちろんですが、院内に情報システム部門を持っている医療機関は限られています。単科の専門病院では更に少ないでしょう。あったとしても人件費分の機能を果たしているのかどうか疑問に思う場合が珍しくありません。私は、コンサルした病院では、看護師、検査員、臨床検査技師、視能訓練士、薬剤師、管理栄養士、医事会計のスタッフを教育し、実質的に情報システム部員にしました。もちろん、専任ではなく、担当業務との二足のわらじです。養成には時間がかかりますが、業務を見直しながら仕様書を作り上げ、SIerと専門用語を交えながらやりとりできるスタッフから成る❝仮想情報システム部❞、お勧めです。以前にも書いたことがありますが、再掲します。

 

~ 仮想システム部門の機能 ~

システム部門には企画(構想、仕様)、開発(製造)、保守、運用、教育などいろいろな役割がありますが、仮想情報システム部は主に企画の部分を担当し、保守、運用の部分でも、できるものは自前でやり、まったくやらない(できない)のは開発の部分だけです。付け焼き刃で開発にチャレンジするのは非常に危険なので止め、専門家であるSIerに任せます。委員以外のスタッフへの教育は、自ら仕様を作っているプロジェクトメンバがやってくれるので問題なく自前で可能です。

 

~ 条件 ~

組織内に仮想情報システム部を作り、機能を果たすには以下の環境が必要です。 

①上から下まで、システムの必要性を理解している。

②時間と予算が確保できる。

③やる気があり、好奇心あるスタッフがいる。

④本来の業務以外に時間を割くことに理解のある雰囲気が醸成されている。

⑤適切な指導者がいる。

 

~ 育成方法 ~

担当している日々の仕事を洗い出し、整理整頓しながら仕様書を作る過程で、ヒアリング、ドキュメント、プレゼン、ネゴシエーションの基本リテラシRを養います。適切な指導者がいればOJTで一定レベルまで引き上げることができます。Howto本は不要です。そもそも、現場を知らないライターや泥をかぶったことのない評論家が書いた本は役に立たず、その様な者が講師を務めるセミナを何回受講してもできるようにはなかなかなりません。

~ どこまでできるようになるか ~

ITに関する知識経験は元より、業務分析、整理整頓などの経験がないスタッフを教育して、どこまでできるようになるのか?あるいは任せることができるか?生兵法はケガの元ではないか等、懸念する向きがあります。しかし、論より証拠。素人であったスタッフが以下のような資料を作れるようになっています。

インプレッションサイトロジ、ヘルペス、検鏡検査は、1回当たりの検査回数、画像有無、測定条件、測定結果の入力、表示方法などが異なり、それぞれの専用入力画面を作っていては手間がかかります。これを纏めて表示する汎用的なレイアウトを検討した結果、下図に示すような方法になりましたが、これを考えたのは情報システムとは無縁だった臨床検査技師です。

自ら考えた方法で、どのくらいの効果があるのかについても考察する習慣ができています。仕様を作って終わりではなく、その先を考えるようになっています。

これによって年間約13000件もあるこの検査をシステムが処理することで、260時間/年の時間短縮が図れ、且つ検査データを電子的に扱えることによるメリットも期待できます。この様なことを考慮しつつ仕様を作ったのは看護師の資格を持つ検査員と視能訓練士です。

 

一方、医事会計部門の委員は、入院中の患者さんの会計処理作業をシステムにのせることで、どれだけ効率化されるかをチェックしました。作業ステップを書き出し、システム化することにより、なくなるもの、残るもの、変わらないもの、変わるものをなどに分類することで、システム化の効果を確信しつつ取組んでいます。

①本日入力する各階の入院患者一覧をコピーする。  

②各階に行ってカルテを借りる。

③診察所見/看護記録/処置記録などを見て請求できるものを点数表と照らし合わせ、過不足がないかチェックする。

④点数表を見ながら医事会計システムに入力する。

⑤入力した日の合計点数が計算されるので、点数表に書き込む。

⑥入退院一覧表を管理しているExcelに適宜入力する。

⑦各階にカルテを​一旦​返却する​(ずっと借りていられないので)。 

⑧​必要になったら、再度カルテを借りる。

⑨③~⑧の繰り返し。

⑩翌日の退院患者の準備作業。(退院後、外来で使用するカルテの出力など)

赤字は確実になくなる作業。青字は完全にはなくならないが、作業が楽になる、または方法が変わるもの。

 

~ 結論 ~

大谷選手のように二足のわらじを履くことになりますが、❝仮想情報システム部とその仮想部員構想❞を実現することで、院内に人材が育ち、且つ、自ら作り上げたシステムであることから育てようという雰囲気が醸成され、持続的な効果が期待できます。業務、ITのどちらにも中途半端なシステム室と要員を抱えるよりは、はるかにメリットがあると思われます。

  

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