IT系情報では一定の評価がある日経BP。複数の知り合いもいます。そこがこんなタイトルのニュースを配信してきました。

情報システム部門の人手不足とは、システムを企画/開発/運用/保守する要員が足りないということですが、調査によれば、開発需要を賄うだけの人的資源がないという企業が65%もあるとのこと。しかも、残業規制が加わると更に不足してしまうという話です。調査項目、調査母集団の特徴(母数、職種、年齢、年収etc)が分からないので確たることは言えませんが、日経BPに限らずその様な主張をするメディアが多いことは承知しています。

 

システム開発に於ける生産性向上、効率化の名の下に、1990年前後から出来合いのシステム(業務パッケージ)で済ませる傾向がありました。そのため企画/開発(設計、製造)する技術が蓄積されず、システム要員の総合的な力が落ちてしまった咎めが出ているのではないかと思います。今、スクラッチでシステム開発ができる力を持っている情報システム部門がどのくらいあるでしょう。人員不足の前に、今抱えている要員をスクラッチ開発できるレベルまで引き上げるための再教育が必要ではないかと思います。

 

今さらスクラッチ?と訝る方もいると思いますが、この業界に半世紀以上身を置いてきた経験からすると、内製化を進めるならそれが一番良い選択だと思うからです。まずは、基本中の基本であるプログラミング能力を高めることですが、開発支援ツールを使っての開発も許容範囲です。しかし、これらHowtoの前にとても重要なことがあります。それは、どうしてそのシステムを作らなければならないのかの吟味をしたのか?WhyWhatです。よく考えずに、あれも必要、これも必要という安易で単純な開発動機で作られていないか/作ろうとしていないかを考える経営層、CIOはいないのでしょうか?

 

ソフトウェア人材の不足が話題になった歴史を振り返ると、大騒ぎした2000年にはソフトウェア技術者が大幅に不足し、ひいては日本の発展を阻害してしまうというソフトウェアクライシスがありました。通産省(当時)が『高度情報化社会を担う人材の育成』という提言を発表したのは、このクライシスへの対策でもありました。それによると1985年に3.5兆円だったソフトウェア開発需要は、2000年には34.6兆円に拡大し、放置すると不足数は、1990年に25万人(60万人説あり)、2000年には97万人(215万人説あり)に達するという予測でした。日経コンピュータなどの専門誌はもちろん、一般メディアも取り上げて大騒ぎでしたが・・・具体的な対策をしなかったのに何も起きなかったことは皆さん承知のとおりです。ソフトウェアクライシスの通産省の提言を取りまとめたメンバは、以下のお歴々。

ご覧のように、ソフトウェア開発の現場を知らない実務経験のない机上の空論家ばかりです。これでは具体的な策が出てくるはずがありません。官僚の作ったシナリオをアーでもないコーでもないと議論し、なぞっただけのことでしょう。煽ったメディアは格好悪くないのかと思います。

 

ソフトウェアクライシスや2000年問題に代わって、今や猫も杓子もDXDXのオンパレードで、この文字を見ない日はありませんが、DX人材不足で2025年の崖(壁)があるそうです。

誰が纏めたのか知りませんが(知ろうとも思いませんが)、これもソフトウェアクライシスと同じであろうことは容易に想像できます。崖とか壁というのは、ソフトウェアクライシス同様、ソフトウェア開発量に見合う人材がいないことによる、社会経済的損失(12兆円)、ひいては国の発展を阻害することだそうです。

 

そもそもその開発しようとするソフトウェアそのものが、なくてはならないものなのかです。ソフトウェアクライシスの際に取り沙汰されのは、当時の価値で34.6兆円分の開発量があると見込まれ、それを処理する人材がいないということでしたが、そうはなりませんでした。それは、前述のように現場を知らない皆さんの机上の空論だったからです。彼らが見積もった34.6兆円分の開発量とは、一体どうやって見積もったのでしょう。見積りの根拠を知りたいものです。ドジャーズに移籍した大谷翔平効果が既に数百億あるそうだそうですが、それと同じくらいの精度ではないかと思います。

 

喧伝されたソフトウェアクライシスがいつの間にか消え、騒いでいたメディアも言及なく静かになってしまいましたが、要するに机上の空論で見込んだソフトウェア開発需要はなかったということです。2025年の崖とか壁も、2026年になれば消えてしまうでしょう。2030年の土砂崩れが出てくるかもしれませんが、こういう話題を作り、その話題を煽って儲けるメディアはいい加減にして欲しいものです。都立科学技術大(現都立大)で都庁の管理職を教育していた時、都議会の議事録を見て驚いたことがあります。それは、都議のこの質問です。

システムの必要性の吟味、そしてそのシステムが対象とする業務の見直しを行うべきだとの主張、正にその通りです。こういう議員がいたんですね。その議員、今足立区長の近藤さんです。近藤さん指摘のように、まずはシステム化対象となる業務と他の関連する業務も含めて分析し、無理無駄をなくし、冗長な部分を整理してから、その部分をシステムに載せる必然性を吟味して、継続的に効果があると判断して、初めてシステムの開発に取り掛かるべきでしょう。付和雷同に手あたり次第にシステムに載せる必要はなく、従ってそれに充当する人員も少なくて済むはずです。

 

※質問はosugisama@gmail.comにどうぞ!

※リブログを除き、本ブログの無断転載、流用を禁じます。