私が朝日新聞を取り始めてもう半世紀以上になります。『強者に従うだけならジャーナリズムはいらない』と言われていますが、権力に媚びない姿勢を評価して読み続けています。それはともかく、記事からブログのヒントを得て書くことが多々あります。今日もそれです。何がヒントになったのか?それは記事タイトルにある『現場を勉強したか』というものです。

このブログでは、実際に現場に身を置き、現場と同化し、観察することの重要性を主張するものが多々ありますが、まさにそれと同じ主張です。この記事はロボットに関するものでしたが、ロボットを開発する技術者は現場を知っているのかと疑問を呈していました。

 

建設、土木などの作業支援をするロボットはともかく、介護のように人間を相手にするロボットが持つべき機能はなにかは、現場を深く知らないと出てこないでしょう。これから益々高齢者社会になる中で、介護機能を持ったロボットを設計する技術者は、実際に介護現場を見たか、観察していたのはどのくらいの期間か、どんな介護が必要な患者だったのか、介護現場のスタッフからのヒアリングを入念にしたか、介護される患者にはヒアリングしたのか等々、これらを知らなければ、介護ロボットに盛り込むべき機能にはどのようなものが必要なのかは分からないはずです。最良の方法は、実際にやってみることです。手術支援ロボットも外科手術を行う様々な診療科の医師に、どのような機能が必要なのかを十分ヒアリングし、出来上がったあとも実際に使った手術現場から挙がって来る問題点をフィードバックすることで完成度/実用度を高めました。手術支援ロボットのダビンチはそうやってその位置を不動のものにしました。

 

一方、現場をほとんど知らず、集めた情報を机上で整理して分かったような解説をするコンサルタントもいます。医療情報システムの場合ですが、それを紹介しましょう。

 

医療機関の情報システムは、全体像を描かないまま、必要になった部分(業務、作業)から、さみだれ的に導入されることが多いのが実情です。いわゆる統合情報システムではなく、個別システムの寄せ集めになっています。そんな中、診療科別の情報システムにつきMBAが解説している記事を見つけました。

12年間、現場と一体になり、泥をかぶってきた経験のある眼科領域だったこともあり、医療業務に詳しいMBAが書いた記事ということで、興味を持って見ました。残念というか案の定というか、トップ/管理層へのヒアリング/通り一般の現場観察で理解したつもりになり、集めた情報を机上で整理した程度のMBAにありがちな内容であることが良く分かりました。上図の①~⑤に対応して解説します。
 

一般的に、次回来院時の診察前に行う検査を指示できる機能を設けています。 また、ベテラン検査員が必要と判断して施行する場合には、その旨を医師に上申し、了解を得た後、施行する機能を用意しています。即ち、必ず医師から検査指示が出ているようにしています。医師から指示が出ていない検査をしてはいけないという基本的なルールがありますが、常識的なことなのでMBAでも分かっているようです。
 

このアドバイスが検査したデータの扱いに関するものだとすると、追加の説明が必要です。検査データを電子カルテから参照、利用できるようには、最初から連携を取るように設計されている必要があります。そうでなく、別個に作られたシステム間のデータ授受、特にそれらが別ベンダ(メーカ)のものであると、一般的にスムーズな接続ができないのが現場での経験から言えることです。データがあることと、それを別なシステムで利用可能かは別問題であることを理解しておかなければなりません。特に上述のように、他社のシステムとの接続は更新のタイミングなど仕様面の打ち合わせが必要になること、およびトラブル発生時の対応、双方のエンハンス時の連絡、調整など面倒なことが多く、大概のベンダは難色を示します。実際にやったことがなく、机上で考えるとこの様な教科書のようなアドバイスになってしまいます。

症状によって何色も使ったり、グラデーションをつける医師もいますが例外的で、ほとんど赤青2色で足りています。眼科のカルテに実際に描かれている図を紹介しましょう。

眼科では、標準6色が決まっており、選択に困るほど多くの色は不要です。グイラディーションなども選択する手間が面倒で、ほとんど使わないのは診察の現場を観察すれば分かります。MBAはこの辺を全く知らずに一般論で書いていることが明らかです。特に最近では、写真を撮り、そこに直接コメントすることができるので、更に不要になりつつあります。

最近のペンタブレットは1024階調以上もの筆圧感知機能があるので、可能になりましたが、表現に時間をかける必要があり、そのために時間を費やせる職種であるデザイナが使う分には問題ありません。しかし、限られた時間に多くの患者を診なければならない多忙な眼科医が利用するのは難しいし、③で述べたように不要になりつつあります。この辺も現場の実態をご存じないMBAならではの机上の空論です。

私の決めた仕様でも適材適所で採用しています。ただし、スキャンしたものと患者とを結びつける機能が必要になり意外に面倒です。技術的にできることと、運用上(操作上)問題がないかの検討を実際にやったことがないMBAならではの一般的な話です。

以上、現場を知ることの重要性を紹介しました。

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