脳内変換?最近、新聞記事で見つけた言葉です。朝日新聞の校閲部門に在籍していた記者の書いた記事でしたが、文章の専門家である記者の書いた記事に誤字脱字、誤った句読点、接続詞、言い回しなどに問題がないかを校閲する文章の専門家中の専門家が、こんな記事を書いていました。

時々不確かな言葉や文法を無視した文章や発言に出会うことがありますが、誤字を直し、脱字を補い、句読点のミスも全体の流れのなかで修正しつつ、大体理解してしまうのが人間の素晴らしいところです。どうやら、無意識のうちに自動的に変換してしまうことを脳内変換と呼んでいるようです。今日はこれを題材にします。

 

例えば、この文章を読んでみましょう。わざと間違いを頭が自動修正するよう、ひらがなにしてあります。では、どうぞ!

~~~~~~原文~~~~~~
こんちには みさなん おんげき ですか? わしたは げんき です。

この ぶんょしう は いりぎす の ケブンッリジ だがいく の けゅきんう の けっか

にんんげ は もじ を にしんき する とき その さしいょ と さいご の もさじえ あいてっれば

じばんゅん は めくちちゃゃ でも ちんゃと よめる という けゅきんう に もづいとて

わざと もじの じんばゅん を いかれえて あまりす。

どでうす? ちんゃと よゃちめう でしょ?

明らかに間違っていますが、前後が入れ替わったり、字足らず、字余りであっても、日頃読み慣れた語句と言い回しが深く刻み込まれている我々の頭は、これら不確かな文章であっても、正しく置き換えて読んでしまいます。普段の生活、職場でデフォルトになっているもの、慣用的に使っている言葉は多少の間違えを脳が吸収してしまうということです。

~~~~間違い(赤字)~~~~

こんちには みさなん おんげき ですか? わしたは げんき です。

この ぶんょしう は いりぎす の ケブンッリジ だがいく の けゅきんう の けっか

にんんげ は もじ を にしんき する とき その さしいょ と さいご の もさじえ あいてっれ

じばんゅん は めくちちゃゃ でも ちんゃと よめる という けゅきんう に もづいとて

わざと もじの じんばゅん を いかれえて あまりす

どでうす? ちんと よゃちめう でしょ?

~~~~書き直し~~~~

こんちには みなさん おげんきですか? わたしはげんきです。

このぶんしょういぎりすケンブリッジだいがくけんきゅうのけっか

にんげんはもじを にんしきする ときに そのさいしょとさいごのもじさあっていれば

じゅんばんめちゃくちゃ でも ちゃんとよめるという けんきゅうもとづいて

わざともじのじゅんばんいれかえてあります

どうですちやんよめちゃう でしょ?

~~~漢字を入れて書き直す~~~

こんにちは皆さんお元気ですか? 私は元気です。
この文章はイギリスのケンブリッジ大学の研究の結果
人間は文字を認識する時その最初と最後の文字さえ合っていれば
順番は滅茶苦茶でもちゃんと読めるという研究に基づいて
わざと文字の順番を入れ替えてあります。
どうです?ちゃんと読めちゃうでしょ?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

私は現場発のシステム開発を以前からやってきましたが、看護師、薬剤師、栄養士、検査技師など現場スタッフを教育し、仕様書を書いてもらいました。書かれた仕様書は、上述の文章ほどひどくはありませんが、誤解を招く表現、省略、言い回しになり、一般的ではない用語を平気で使っている例を頻繁に見つけました。看過してそのままSIerに渡せば、意図しない仕様で実装されてしまいます。原因は、読み手も自分達と同じ知識・経験を持っているものとして書かれているということです。言い換えようがない専門用語はともかく、常識があれば理解できるように指摘、添削してきました。

 

しつこく指導してきましたが、即座に理解し、それ以降問題のない人は少数で、何回か指摘するうちに分ってくる人、何回言ってもダメな人など、さまざまでした。指導するなかで、慣れを払しょくし、行動してもらうことが如何に大変であるかを実感することが幾度となくありました。一方、逆な場合もあります。私が書いた専門誌向けの出稿前の原稿を内容に門外漢な現場スタッフに読んでもらうことが時々ありました。理由は専門知識はないものの、一般常識を持った門外漢の方が先入観なく読むので、言いたいことが正しく伝わっていないこと、変な言い回しに気がついてくれるからです。これで、表現ミス、不適当な語句の使用、言い回しなどの間違えを発見してもらい、救われた経験があります。先入観のない新鮮さの違いです。これは、これからも心すべきことだと感じています。

 

※質問はosugisama@gmail.comにどうぞ!

※リブログを除き、本ブログ内容の無断転載、流用を禁じます。