システムトラブルで操業がストップした事例は過去にもあり、経験しました。私の場合は、ストップしたのではなく、❝しそうになった❞ですが、当時(1978年)注文をFAXで受け付けていた大手パンメーカで、OCRリーダが注文票を読めなくなったというトラブルでした。SEからの連絡を受け、OSのハードウェア周りとエラーリカバリを担当していた私とOCRを作っていた工場、OCR読込み処理を担当していた部署から、急遽都下のその工場に駆けつけました。注文票の処理ができないと、発注元のパン販売店に届けることができず損害を引き起こしてしまうことになります。原因は注文票が少量のジャムでくっ付いてしまい、これを読もうとしたOCRがWフィードを起こして止まってしまたというものでした。OCRのエラー処理のバグでなくホッとしましたが、原因究明と共に正常に処理できるようになりました。深夜の待機中、パン工場らしく腹ごしらえにパンが出されたので良く覚えています。この様な直接担当した事案以外にも、システムトラブルで生産ラインが止まった、発注ができなくなった等のトラブルはありましたが、関係者が現状を分析し、影響を最小限に留めることができました。それは、当該システムを0ベースで作るスクラッチ開発が当たり前の時代だっただからかもしれません。スクラッチではなく、出来合いの業務パッケージを使い、どこがどう不具合なのかを究明する力を持ったSE・関係者がいない中身がブラックボックス化している今は、原因究明と対策を立てられる人がおらず、正常に戻るまでに時間を要してしまう可能性があります。

そこに、グリコの主力製品の一つであるプッチンプリンが出荷できず、お店の棚から消えてしまう問題がおきてしまうというニュースが飛び込んできました。今日はこれを取り上げます。

その後、影響はプッチンプリンだけではなく、冷蔵品、牛乳も出荷できない事態になっているようです。

実際には4/23に不具合が発生していたようですが、TV画面に出ていたのは次のような状況でした。
①5/3:生産、出荷などの基幹システムにトラブルが発生
②5/14:全ての冷蔵品の出荷停止
③5/18:一部商品の出荷再開
出荷再開まで2週間以上も要するとは異常ですが、今度は実在庫とシステム上の在庫が不一致になるというデグレードが発生してしまうという、システム提供側としては最も避けたい(恥ずかしい)事態になってしまったようです。

2週間以上もかけて修正したつもりがデグレード・・・このシステムは、売上3千億超のグリコが、340億円もかけて導入したSAPのERPパッケージ。この超巨大なERPパッケージの全容を細部に亘って理解しているSIer(SE)、コンサルティングファーム(コンサルタント)がいるのか疑問ですが、主契約者は内紛状態にあるとされている
デロイトトーマツコンサルティング

コンサルティングファームのデロイトに、大企業の命運を左右する基幹システムを企画/設計/構築/検証/稼働/保守する具体的な知識、実務経験があるか否かは分かりませんが、何しろ340億もの巨額予算を必要とする巨大システムです。企画、設計、製造(生産)、品管、受発注、在庫、出荷、営業、経理などのシステムを0ベースで作って来て、システムの設計ドキュメント、システム間の接続仕様書が整備されていて、経験を積んだ担当者がいなければ、怖くてシステムをいじることができません。そもそもブラックボックスのERPパッケージなので、グリコのシステム子会社はもちろん、主契約者のデロイトも設計ドキュメントは持っていないと思います。

ということは、今回のトラブルシューティングはSAPの担当者がやらないとできなかったのではないか?しかし、修正することによって実在庫とシステム上の在庫が不一致になってしまうというデグレートをやらかしてしまう失態を見ると、修正した際に必ず行う不具合解消ができているかのテスト以外のその解消策によって既存の機能に害を及ぼさないかというデグレートにならないかの検証をしていない!と想像してしまいます。彼らはプロなのか?

 

グリコは、4/3に340億もの予算を投じて基幹システムを切り替えたようですが、それが今回トラブルを引き起こしたSAPのERPなのでしょう。レガシーシステムの更新が間に合わず、業績に影響を及ぼすという2025年の崖という問題があり、その方面の積算によれば、12兆円もの損失を招くとされています。

20××問題と言われるものは、過去にもあり、対応しないと大変なことになる等と言われてきましたが、大変なことになった例はありません。机上の空論家が2025年の崖で12兆円もの損害という根拠不明な話を持ち出すのもいつものことなので気になりませんが、巨大になりすぎたレガシーシステムを細部に亘って全体を理解している担当者がいないという状況は危険です。怖くていじれない・・・ので、使い続けるしかないという事情が見え隠れします。しかし、本物のCIOがいれば、レガシーシステムの機能を継承&改善改革したうえで、ハードウェアインフラを今風に変える計画を着実に実行してきたはずです。しかし、本物のCIOはなかなか見当たらないのが現状です。DXもそうですが、経営を支援する統合情報システムを企画構築、移行できるCIOに出てきて欲しいものです。

 

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