4月からトラック運転手の時間外労働に上限が適用されることになり、その結果、輸送力の不足が懸念されるという物流の2024年問題が取り沙汰されています。裏を返せば、運転手に負荷がかかっていたということですが、運転手にとっては運転時間に比例した収入が減ることになり、経営者にとってもトラックの時間当たり稼働率が下がって売り上げが減ってしまうことにもなります。運転手の労働時間が減ることを補うために新規に運転手を雇い入れると経営を圧迫します。そもそも重労働の運転手になろうとする人が少なく、集めようにも集められない状況にあります。

給与を上げれば少しは改善されるかもしれませんが、燃料費の高騰もあり、運送業者約6万社の6割近くが営業赤字となっていて業界全体が厳しい状況で、その余裕はありません。

2024年問題は、運送会社の利益減少/荷主の運賃上昇による商品への価格転嫁/運転手の賃金減少/運転手の離職という現象を指しますが、この連鎖は止まらないどころか、更に負の連鎖が拡大し、社会経済活動を停滞させる方向にあります。

 

一方、情報システムは業界業種を問わず、あるいは連携してより便利な社会の実現に寄与しています。宅急便などはその典型ですが、運送業界のシステム化も進んでいます。電子化されたデータは、ネットワークを介して情報交換され迅速的確な業務処理ができるようになりましたが、トラック輸送に代表される物流は電子化できません。トラックとそれを運転する人間が必要になります。

 

安倍政権の目玉でもあった生産性向上、働き方改革ですが、内閣府のホームページをみると、その検討メンバは以下のとおりです。

何の知見を持たない生稲さんが有識者に入っていることに代表されますが、2次受け3次受け4次受けの下請け構造のあるトラック業界の階層構造や乗車時間(運転時間)が長いことでようやく生活ができる収入を得ている現状を分かっている人がメンバの中にいるのでしょうか?実現不可能な机上の空論が戦わされたことは容易に想像できます。安倍さんに花を持たせたい周りが考え付いた生産性向上、働き方改革ですが、バラ色のスローガンを実現するための実行可能解が見えません。

話しが少し横道に逸れましたが、現場を知らない政治家、官僚、学識経験者(御用学者)の考えた愚策のために、一般庶民が迷惑していることを言わずにはいられないので、物流の2024年問題に関連して私見を述べました。

 

さてその2024年問題ですが、NHKが現場で知恵を絞って成果を出している業者を紹介していました。3KならぬnKの物流業界の運送会社に就職してくれる人はおらず、上掲のグラフに示すように運転手の求人倍率は約3倍!そんな中、募集したら求人数の45倍もの応募者が殺到した運用会社があります。福岡県に本社を置くGライン(荒牧社長)は、従業員数75人の運送会社。全国的にドライバーの人手不足に苦しむ会社が多いなか、この会社の求人に応募者が殺到しているとのこと。去年1年間の実績は15人の求人に対して、応募者は688人で、倍率は45倍!

その人気ぶりを支えるのが、4年前から始めたSNS時代を反映した知名度向上戦略。

アップするのは、ドライバーの仕事ぶりを紹介するものだけではなく、日常の会社生活を紹介するものもあり、再生回数が400万回を超えたものもあったそうです。SNSを見たことがきっかけで応募した人がどれくらいの割合でなのか、また安易に応募して安易に離職していないかの分析を待たなければなりませんが、求人数に対して45倍もの応募数を見れば、このSNS戦略は成功したと思われます。しかし、評価尺度や働き方が昔ながらではやがて嫌気がさして転職されてしまいます。そこで、社長が考えたのは、時間当たりの生産性(稼ぎ高)という評価基準です。

とかく売上高を競いがちですが、そうではなくその売り上げに要した時間で評価するわけです。上図で見れば、売り上げはA営業所の方が多くなっていますが、時間あたりの稼ぎはB営業所の方が多くなっています。生産性という概念を運送業界に持ち込んだ社長のセンスが光ります。もちろん、その評価基準は賃金に反映される仕組みになり、営業所ごとの知恵の出し合いなるという、切磋琢磨ができるようになったとのこと。また、経験者よりも未経験者を採用するという採用基準も新鮮です。理由・・・未経験者だからこそ感じる非効率な働き方があるはずで、これを働き方の改善改革に活かして欲しいというものです。経験者は『この業界ではそれが当たり前』と自分の中で飲み込んでしまう傾向があり、それでは新しい視点での働き方ができなくなる!この社長、海上自衛隊出身とのことですが、実務経験なく泥をかぶったこともない机上で物事を考える評論家的コンサルタントとは違い、現場を指揮してきた経験から到達した結論!説得力があります。
 
生産性向上、働き方改革などが、自発的に盛り上がってくるような雰囲気が醸成されていないと長続きしませんが、誰からも強制されず、ブームにも迎合せず、自らの発想でやるべきことを洗い出して実行する、この会社とその指導者のような組織が増えてくれば、2024年問題の実行可能解を見つけられるのではないかと思った次第です。
 

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