ある大学病院で整形で手術を受けた家内が、退院してからもその病院のリハビリに通っていますが、リハビリの間、新聞を読みながら待っています。あるとき、リハビリ担当の理学療法士の先生が、私の持っていた新聞にあった法人税優遇2.3兆円の見出しを見て『2.3兆円も!』と驚いていました。

私は、『賃上げの原資をねん出するための支援策ではないか。今回の春闘は満額回答が相次いだのは、このお蔭かもしれない』と言ったところ『うちも上げて欲しい!』。少し前のことですが、今日はこれをネタにします。

 

製造業、小売業、JR、自治体(都庁)、医療機関などの業務改善、改革、システム構築、人材育成などのコンサルティングをしてきましたが、自治体以外は民間企業。生産性を上げ、売り上げを上げ、利益を出し、そこから給与が出る仕組みです。

 

働き方改革とかジョブ型雇用、物価上昇に見合った賃上げを等と言われていますが、まずは、給与の原資になる売り上げがなければ、賃上げなど絵に描いた餅です。岸田さんが号令をかけ、経団連など経済団体傘下の大企業の春闘では軒並み満額回答になったようですが、政府の要請に応じた(応じざるを得なかった)随分な大盤振る舞い!しかも、企業努力や売り上げが上がり黒字決算だったということではなかったようです。2.3兆円もの法人税優遇が賃上げの原資という一過性の見せかけの賃上げでは長続きしません。法人税減税した分の税収減はどんな政策で補おうとしているのか知りたいものです。岸田さんが、少子化対策の財源確保に向けた支援金制度の国民負担額を医療保険加入者1人あたり月500円を徴収しようとしていますが、2.3兆円の法人税減税をしなければ、少子化対策向けの十分な財源となったはずです。

 

無理のない本物の賃上げは、有形無形な働き易い環境、無理無駄のない作業、適宜適切な情報システム(IT)の適用によって、打てば響く指揮命令系統を以て、無理なく生産性を上げられる体質にしてこそ実現します。筋肉質な組織にした後、売り上げ増になる実行可能な施策を講じることです。これがなければ賃上げどころか給与を支払うことができなくなるかもしれないし、組織を維持しつつ将来への投資もできません。

しかしこの売り上げ増、マーケットを先読みし無駄のない生産計画をたてて物を作って市場に供給して儲けを生み出す製造業や、マーケットを捉えた品揃えと魅力的な価格、丁寧な客対応で売り上げを伸ばすことができる小売業など、具体的な施策を採りやすい業種がある一方、医療機関のような積極的な売り上げ増のための施策が打ち出しにくい業界もあります。キャンペーン期間中なので手術代を他より安くしますという販促は法律上できないし、10回来院したら1回無料にしますとか、ポイントを付与しますということも法的にできないのが医療機関です。つまり、医療業界は他の業界業種とは違って売り上げ増のための積極的な施策を打てません
 

利益を削ってスタッフのために使うにも、その利益を生み出せない医療機関が少なからずあり、自治体立病院では当該自治体から助成してもらっているところが多々あります。私の教え子がシステム課長をやっていた都下の市立病院では、年間約18億円もの助成をしていましたが、そうでもしないと賃上げどころか給与を支払うことができないという状況でした。助成がない民間病院は推して知るべしです。

糖尿、がん、アトピー性皮膚炎、変性膝関節症、脊柱管狭窄症などの疾患別公開講座を開いたり、Youtubeなどで情報発信して、技量、実績をアピールすることもありますが、積極的な集客ができず、診療報酬制度で診療行為毎に支払われる報酬は決まっているので、医療機関の収入増を図るには外来患者数(特に新患)、手術件数、病棟稼働率を上げるしかありません。最も重視しなければならないのが新患の獲得です。誘客(集客)するには、ホームページなどで実績をアピールするのが一般的ですが、言っていることと実態が違うことがしばしばあるのが実情なのは、皆さんご存知のことです。

そこで、

・良い先生がいる

・手術実績が多い

・スタッフの感じが良い

・あそこなら安心

のような、評判が立つような実績、雰囲気作りが重要になってきます。立派な建物は建ったけれど、中身が伴わないというのでは話になりません。医師数300近い地域の拠点病院では、市の中心地をかなり離れたところに新築移転したのに伴い、辞める医師、看護師が続出し、患者も離れ、苦しい経営を強いられることになり地元の新聞にも報じられる始末。

きれいで立派な病院も魅力的ですが、馴染みの先生や看護師がいなくなっては、患者が離れてしまうことに気が付かないか?上掲の患者が来てくれる病院の条件を気にしなかったのでしょうか?

 

理学療法士の先生が言った『給与を上げて欲しい』という希望は、おそらく全員が抱いていることでしょう。幸い、その病院は地方にあっても、地元の皆さんに信頼され、患者は多く、また年間約3,800件の救急車を受け入れ、年間1,500件以上の3次救急患者も受け入れている病院なので、限界はあるものの、患者は減ることはなく、更に新患が増えてくれば、スタッフの希望がかなえられるのではないかと思います。

 

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