よく本来の仕事という言葉を目にし、使います。特に、業務分析をし、無理無駄を省いて整理整頓する際にはこの言葉が飛び交います。毎日送られてくる案内メールにもその様な言葉が散りばめられています。

このよく聞く本来の仕事となに?医師の場合、かいつまんで挙げれば次のとおりです。

①患者を診察する

②診断を確定するために検査をオーダする

③検査結果を踏まえて、診断を下す(所見)

④所見を踏まえて、必要な処方をする(必要があれば、手術を行う)

⑥経過を観察する

⑦症状が改善すれば終診

⑧改善されなければ、原因特定のために新たな検査、あるいは他医にコンサルトする

 

これが医師にとっては本来の仕事です。では、本来の仕事ではないのはなに?文献調査、論文執筆、学会発表などがありますが、患者を診るということには直結しないものの医師としてステップアップするためのもの。これは本来の仕事ではないものの必要なものです。勤務医にとって不要なものは、外来患者数、手術件数、病床稼働率、新患増減など、経営状況に関するものです。しかし、経営を意識しない医師は経営陣から嫌われます。難しいところですが、医師は本来の仕事とそうでない仕事がはっきりしている職業だと思います。ジョブ型雇用という言葉が取り沙汰されていますが、医師はこのジョブ型雇用に分類される職業でしょう。言い方を変えれば、ジョブ型雇用の職業は、本来の仕事がはっきりしていて、付帯する仕事が少ない、あるいはない職業ということになります。話しが横道にそれてジョブ型雇用に飛んでしまいました、戻します。

 

実は、上掲の医師本来の仕事①~⑧の中に付帯的な仕事(作業)が隠れています。それは、検査オーダを出す手間、所見を書く手間、処方を出す手間です。あちこちの台帳、管理簿、関連書籍を見ながら、間違いないようにしなければならないこれらの仕事を、システムに代替えさせることで時間の短縮(手間の縮小)、間違いの減少(精神的負担軽減)が可能です。例えば、薬剤の処方の際に、当該症状では禁忌となっている薬剤、あるいは既に他科で処方されているとの組み合わせで処方には注意が必要な薬剤などを処方してしまった場合には、警告メッセージを表示することで、注意を喚起することができます。

ハイリスク薬も同様に誤って処方してしまうことを避けることができます。実際に山口県立総合医療センターでは、肺がんの患者が10日間にわたりステロイド薬を予定の11倍投与され、このミス発覚後、さらにモルヒネを予定の2倍投与され、その2日後に亡くなるうという医療ミスがありましたが、警告メッセージを出すようなロジックが組み込まれていれば、凡ミスを解消することができます。


以上は医師の例ですが、本来の仕事、付帯的仕事を分析し、付帯的仕事を外部に委託して効率を上げた牧場を経営する農業法人の例を紹介します。

 

ある時、テレビで鹿児島県の薩摩川内市にある、農業法人が紹介されていました。牧場という業種への先入観があったせいか、業務の見直し、無理のない合理的なコスト削減策が採られていたことに感心しました。簡単に言えば、以下のとおりです。
①本業と付帯的なものとを分ける
②本業を社員で行う
③付帯作業は、それを専門とする外部業者に任せる

全てを自社でまかなわないということですが、これはアウトソーシングの基本です。これを肉牛飼育に取り入れたのは社長ですが、この社長、アウトソーシングを知っていたわけではありません。当たり前にそう思ったということです。どこかで習ったとかではなく自然にそう思いついたわけですが、それが本当でしょう。習うものではなく、自ら考えつくものではないかと思います。社員の本業は、
①しっかり餌を食べているか
②体調はどうか
③いじめられている牛はないか

など、牛をしっかり観察することと定義しています。牛にも人間同様、引っ込み思案、自分優先などの性格があり、与えられた餌を我先に食べたり、十分食べられずに後ろで控えている牛が出てきたり、のけ者にされて❝引きこもり❞になってしまうものまでいるそうです。このことにより、製造業で言えば、製品にあたる牛の品質(肉質)の差がでてきてしまい、歩留まりが悪くなる原因になります。歩留まりが悪い=製造コスト高となります。

 

①~③の状況を観察し、一緒のグループで飼う牛のクラス替えをしたり、具合の悪そうな牛は早めに獣医に診せるそうですが、手間がかかる仕事です。これらの作業を、藁の敷替えや排泄物の処理、牛舎の清掃作業をしつつ十分に行うことはできません。どこかで抜けがでてきます。そこでこれらの作業をそれを専門の外部業者に任せたわけです。もちろん、外注費が発生しますが、本業に注力できる分、一人の社員で管理できる牛の頭数を増やすことができます。この牧場では約5千頭もの牛を、わずか15人でみているとのことで平均の10倍以上の効率です。外注の支出を補ってあまりある生産性を達成しているといえるでしょう。補助金に頼ってきた感のある農家というかJA、補助金をチラつかせ選挙でと図る政治家の図式では、この様な知恵はでてきません。

アグリITという言葉が流行っていますが、この例はITではなくBPRです。何から何まで一人でこなすのが農業と思いがちですが、この様な事例もあります。付帯作業の外部委託だけではなく、十年一日の見方ではなく、視点を変えれば見えてくる景色も違ってきます

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