小林製薬の紅麹サプリメントを長期間飲んでいた人が5人亡くなり、入院が必要になった人多数、常用していて不安に思った人が同社のコールセンタに問い合わせて来たのが1万件超という事件が起きています。連日報道されるこの事件を受け、先行きを心配してか小林製薬の株価は急落しています。

実はこの紅麹、2014年に危険性が指摘されていました。小林製薬がこれを知らないわけがありませんが、製造方法から考えてここで指摘されているような有毒成分が混入する懸念はないとして、販売したのかもしれません。

その後の調査では、青カビ由来の天然化合物プベルル酸が検出されたそうです。どこで紛れ込んだのか、あるいは何らかの反応で生成されたのか。毒性の強いとされるプベルル酸が、腎機能に悪さをする機序は解明されていませんが、2014年の欧州で指摘されたシトリニンではないことは分かりました。それはともかく、新聞などで報道されている経緯は次のとおりです。

①腎疾患の被害報告が医師から入ったのは1/15

②入院事例が増えていった

③社長に報告をされたのが2/6

④消費者庁、大阪市保健所に相談したのが3/21

④自主回収を発表したのは3/22

 

先日の株主総会でも『対応が遅すぎる』との質問が出ましたが、これに対して社長は『因果関係の確認に時間を要した』とのこと。連絡してきた医師からどの様な情報を得たのか分かりませんが、診察した専門知識を持つ医師が連絡してきたことを重視すれば、原因究明に先んじて健康を売りにしている製品の性格上、服用を見合わせるよう注意喚起をすべきでした。

 

医師からの情報提供があってから社長に報告するまでに約1ヶ月を要していることも問題。自社製品が健康被害を起こしているかも知れないという情報は、健康に寄与する製品を作る製薬会社としては1/15の時点で社長に第一報を入れておくべきでした。社長が創業者一族であるという物言いしにくい雰囲気が、トップへの報告を躊躇させたのではないかと想像します。

社内で留めておくことができないとして消費者庁、大阪市保健所に相談したのが社長が知ってから約一ヶ月半後の3/21!最初に通報があってから2ヶ月以上もの間、サプリを飲み続けていたことになります。赤色を付けるために使われたパンや菓子を食べて、間接的に摂取してしまったというではなく、主成分として入っている錠剤をモロに飲んでいることになるわけで、この2ヶ月間の放置で大きなダメージを受けた人が少なからずいたことは容易に想像できます。現に、富士市立中央病院に体調不良で入院していた服用者が、退院後に服用を再開したら 倦怠感や食欲不振を来し、再入院したことからも明らかです。

 

自社製品が、場合によったら死に至るかもしれない健康被害を起こした時の対処の仕方(危機管理)の基本ができていなかったことが分かりますが、これを同じことが情報システムにも起こります。それは、システム障害です。自社内で閉じるものでもシステム障害が起きると仕事が止まってしまいますが、銀行、証券会社など金を取り扱う業種や、飛行機、新幹線などの交通系のシステム、原子力発電所の制御システムなどは、多数の人に直接関係してきます。航空管制システムや列車自動制御システムが機能しなくなったとか、銀行の入出金ができなくなったら・・・を考えれば明白です。銀行や航空管制ではなく、もっと身近な私が直接経験した事例を紹介します。

 

OSの設計(ハードウェアまわり)とSEへの技術支援をしていた私は、トラブルシューティングもやっていました。東京近郊の大手パン製造会社担当のSEから一報が入ったのは定時間際でした。現象はMSR(Mark Sheet Reader)が読めないというものです。当時はパン小売店からマークシートで注文を受け取り、翌朝まで製造&出荷するというシステムでしたが、注文情報が記載されているマークシートが読めないのでは、何を幾つ作ればいいのかの生産計画がたちません。MSRのエラー処理を作ったのが、たまたま私だったので対策を行うよう指示されました。翌朝までの出荷まで間に合うようにしなければなりませんが、当面の対策、原因究明、それを踏まえた恒久的な対策の3本柱で臨むことにしました。考えられるのはMSRのハード不良、次にエラー処理のバグです。周辺機器を作っていた事業所からはMSRを持ち込み、私はMSRのエラー処理をしているソースコードをプリントして、パン製造会社に駆けつけました。現地でSEと打ち合わせ、原因究明前にパンの製造出荷ができることを優先しました。不具合というMSRを持参したMSRに交換し、パンの小売店から注文情報が書き込まれたマークシートを読ませ、正常に動作することを確認。パン製造は問題なく再開されました。原因究明に先立ち、まずは動くようにして翌朝の出荷ができるようにしたわけですが、ここが小林製薬との違いです。同社は、サプリメントと腎機能低下の因果関係を2ヶ月以上もかけてやるのではなく、まずはストップしなければなりませんでした。ストップしてから、原因究明すれば被害は広がらなかった可能性があります。

 

なお、パン製造会社のMSRを分解して調べたら、マークシートがジャムでくっつき読み込み時に内部グチャグチャになり、フィードできなかったということが分かりました。MSRエラー処理のバクでないことも分かり、再発防止はパン小売店から送られて来るマークシートをMSRにセットする際に、くっ付いていないかを入念にチェックすること、読めなくなった場合には、カバーを開けて巻きこまれていないかをチェックするという手順を顧客に説明しました。実は、この手順は稼働当初に注意事項として顧客には説明してあったものでしたが、安定稼働が続き、時間の経過とともにお座なりになり、いつの間にか忘れ去られしまったものでした。

 

まずは、それ以上の事態の悪化を防ぐ対策を行い、小田原評定をして時間を費やし、事態を悪化させないことを最優先するということが、今回の小林製薬事故の教訓でした。この事故で何十年も前の対応を思い出した次第です。

 

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