今月初め、朝日新聞にこんな見出しの記事がありました。

幾つか紹介されていましたが、中期経営計画(通称中経)を止めたという味の素の例が見解が紹介されていました。辞めた理由を列挙すると、以下のとおりです。

・今まで以上に先が読みにくくなった

・しかし、今まで通り慣例に従って中経を作っていた

・中経作りには多くの時間が割かれる

・目標達成率が賞与に反映される

・さまざまな理由をつけて無理のない目標設定にしてしまう(達成しやすい目標)

・最終年度には、目標をクリアするためにつじつま合わせをする

・それができるのが、優れたマネージャ

・これでは、チャレンジングな目標が出てこない

・これでは、組織は活性化せず、本末転倒になってしまう

なるほどと思うことばかりですが、多くの企業が何年かに一度中経を作っています。昔、在籍していた会社でも幹部の皆さんが『中経、中経』と叫びながら多くの時間を費やし、神経をすり減らしながら作っていたことを思い出します。

 

監査法人に転じてからはそれを評価する側に変わりましたが、計画を作ること自体が目的となり、計画が実行可能か否か根拠を以った実行可能解が書かれているのかを疑う内容が多くを占めていたことを思い出します。書かれていた内容は概ね以下のようなものでした。
①世界、国内の政治経済社会の趨勢
②自社が所属する業界動向、市場推移、技術動向
③その中に於ける自社の位置づけ
④競合他社分析
⑤優位に立つための方策(新製品、技術、人材、生産性向上、士気etc)
⑥スケジュール(マイルストーン)と実行可能な根拠
⑦新規開拓可能な業種、業態
⑧その実現可能性(根拠、手段etc)
⑨最終目標(売上、利益、株式公開、上場、海外進出etc)


中経は夢を描くのではなく、実行可能解でなければなりませんが、グローバル/IoT/AI(Artificial intelligence)/データドリブン経営などという流行りのキーワードがちりばめられた計画書ができあがります。少し前は、エコであり持続可能(サステナブル)、ダイバーシティなどがキーワードでした。そうそう、クラウド、ビッグデータという言葉が踊っていた時期もありました。で、計画通りにいくかと言えば、そうならないケースがほとんどです。そもそも、計画を作り終わった時点で、既に前提条件が変わっているのが常です。前提条件が変われば、施策もそれに応じて変わらなければなりませんが、そうならないのが現実です。その前に、その都度反映していたら計画は永遠に出来上がりません!

大きな前提条件に景気があります。過去を振り返ると、1950~1953の朝鮮戦争による特需景気は別として、神武景気(1955~1957)、岩戸景気(1958~1961)、いざなぎ景気(1965~1970)、平成バブル景気(1986~1990)がありました。その間には、なべ底不況、石油ショック、円高不況など様々な不況もあり、1997年に始まった不況は今も継続中!実質賃金は今も目減りし続け、OECD諸国の最低で、韓国にも抜かれているのが現状です。

年金基金にまで手を付けて株を買い支え好景気だという見せかけのアホノミクスも絡んで先が見えません。


その様な状況の中で、悲観的(pessimistic)な見かたをするか、楽観的(optimistic)な見かたをするかで経営計画がガラッと変わってきます。悲観的に観ていたら意外に好調だったリ、楽観的に見ていたらロシアのウクライナ侵攻が勃発し、イスラエルがパレスチナをオーバーキル(overkill)するなど、急激な変化に見舞われ世界情勢が一変したとか、未曾有の大災害が起きるなど、悲観、楽観に拘わらず、予測できない不確定な要素が多過ぎて計画自体が意味を持たなくなってしまうこともあります。


集めた情報を机上で整理してうんちくを語り、当たっても外れても研究の一環と考える学者や評論家はともかく、実際に経済活動の真ん中にいる一般企業では、経営計画どおり遂行するのは至難の業というよりも、むしろ不可能に近いと言った方が良いのではないかと思います。それでは経営計画を立てる意味がないのか?


少なくとも数年に一度、過去を振り返り、現状を見つめて計画(見通し)との差異を分析し、それを踏まえて将来を展望する機会と見れば意味があると言えましょう。しかしそれだけだとすると、中経立案にあまりにも多くの人的、知的パワ-、時間を費やし過ぎているのではないかと思えます。


多くの工数をかけて作られた中経が、捕らぬ狸の皮算用であったり、競合他社と差別化が図れないものであり、作ったという満足感に浸る程度のものなら、なくても良いのかもしれません。作成にかけるパワー(人、時間、予算)を、人材育成など別の施策に使った方が具体的な成果を期待できるのではないかと感じます。そういった意味で、セレモニ的な計画策定をやめるという味の素の中期経営計画策定廃止は、一石を投じたと思います。

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