汎用機全盛時代には重電系のコンピュータ事業部で、OSの設計、SEへの技術支援、性能を主とするトラブルシューティングを担当し、外に出てからは技術者ではなく、業務分析、改善改革、人材育成、組織の活性化を指導するコンサルタントして経験を積んできました。様々なプロジェクトにも参加してきましたが、その活動を通して経験したことの中から、懸念を抱くことが多々ありました。当時を思い出して3つ挙げました。心当たりのある方がいると思います。

 

専門外

見極める力が備わっていないときは、にわか勉強の生兵法で取り組まない方が無難。“複数の専門家の判断や、専門誌の評価”を参考にすることを勧めます。しかし、週刊誌のような一般を相手する雑誌に載るブームの解説や技術解説は、一見分かりやすいものの、気を引くためのセンセーショナルな見出しと、中身の薄い解説でしかない場合 が多いので、話題程度で済ませ、本気で参考にするのは避けた方が無難です。また、2000年問題の時、専門家と称する現場経験のない有識者達が、

・ミサイルが撃ち込まれる、

・飛行機が墜落する、

・情報錯綜により戦争が勃発する、

等々、“起こり得る可能性(確率)を考えずに、机上で考えつくことを述べた”過去があります。防衛庁の専門家が『どうすればミサイルが撃ち込まれてくるのか教えて欲しい』とのコメントを夕刊タブロイド判に書いていたことを思い出しますが、現場の経験を持っている者には『現実にはあり得ない』と判断できるものなのに、彼らは生起確率を考えずに色々考えついてしまうわけです(その様な見解を出すよう依頼されているのかもしれません)。実際に額に汗し、泥をかぶった豊富な経験を持つ専門家はごく少数であることを知っておく必要があります。 ムになるような考え方、新語が出てきた時は、その内容をザッと調べ、本当に知っておく必要があると感じたものは、右から左までの複数の専門家の意見を聞き、専門誌を見た後、自分で判断できる素養というか基礎的知識を持っておく必要があります。安易にブームに迎合したり、専門家を自称する皆さんの解説、意見を無批判に受け入れないこと!これが基本だと思います。

 

鵜呑み

家を建てるときには様々な職種の職人が必要になります。左官屋、建具屋、水道工事屋、電気屋、屋根葺き職人、それに大工である。それぞれ専門家ですが、いくら頑張っても一人では家は建てられません。実はこの職人全員が集まっても家はできません。なぜ?建て主の希望を仕様に落として設計し、仕事の段取りを決められる者がいないからです。彼らの設計と段取りに従って、それぞれの専門の職人が動くわけです。専門家であっても、一人や限られた分野では身動き ができないいうことを改めて知っておかなければなりません。一方、それぞれの専門家がプロジェクトを組んで家を作り上げる様子は、IT分野で言えばシステムを作ることに似ています。システムは家を建てる以上に専門分化した職能集団が必要です。日進月歩のIT分野は、専門家でいられる時間が少ないという問題があることを知っておく必要があります。普遍的なものはありますが、専門性が高く自由度が少なかった汎用機時代のノウハウを今に適用することはできません。老害になってしまうでしょう。会計ソフトの宣伝を頻繁に見受けますが、会計業務はいわば左官屋、建具屋の範疇であり、これだけでは多種多様な業務から成り立つ企業のシステムはできません。 また、一つだけ優れたシステムがあっても、他のシステムが旧態依然なものであった場合には効果は望めません。なぜならそれは、高速道路と一般道路、農道が一緒になっている道を走るようなもので、一部分だけ速く走れても、全体から見るとそれほど時間短縮にはならないことと同じだからです。しかし、無批判に宣伝文句を信じると、導入、即他社に打ち勝ち、業績が向上するかの様な錯覚に陥ってしまいます。そんなことはあり得ませんが、あり得ないという判断ができない人の方が多くそこにつけ込まれる懸念があります。バカげたDXブームに乗せられ、ローコード、ノーコードなどのツールを使って不要不急、局所的な開発をしたりしている今は、正にそうです。そもそも彼らはEUC、EUDがどうなったのかを理解していないのではないか?

 

にわか専門家

ユビキタスに限らず、新しい構想、新技術などが出てくると、必ずその方面の専門家や評論家が登場する。マスコミも我先にと解説記事を載せる。しかし落ち着いて考えると、新しく構想された ものを、人に解説するほどに精通した人物が、即座には現れないはずであることに気がつくはずです。否、気がつかなければなりません。気がつかないと“乗せられてしまい”、慌てて本を買い込んだり、時代に取り残されてしまうのではないかと焦ったりしがちです。今はDXですが、40年ほど前に流行った言葉にソリューションがあります。情報システムと呼ばずにソリューションと呼んだのは、技術面や機能面からの視点ではなく、諸問題を解決する解(solution)を提供するという見方から来ていました。ITが量の解決から質の解決に使われ出すと、今までのイメージが濃い情報システムではなく、新たな言葉が必要になり、ソリューションという言葉が使われだしたのではないかと思われます。

一方、システムという名前では新鮮味が失われ顧客への訴求力が落ちるということで、同じ内容 だし、担当する者も同じなのに別の呼び方が必要となり、目新しさを漂わすソリューションという 言葉に代わったという見方もあります。残念ながら、コンピュータメーカやコンサルティング会社で見かけるソリューション事業部という組織名は、ほとんどこれではないかと思われるほど実態は変わっていなかったことを思い出します。簡単に言えば看板の架け替えです。一朝一夕には育てられないのが人材であることを考えれば当然なことですが、往々にして我々はそれに騙されたり、踊らされたりしています。

 

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