40年近く前、小売業(ホームセンタ)のコンサルティングをしていたことがあります。当時は、TECのような専門メーカーのレジを使うことが一般的でしたが、Windows3.1が出て来た時期でもあり、TECなどの専用レジではなく信頼性が高くなってきたパソコンとキャッシュドロワーを連動したレジができないかを考えました。それによってコストを抑え、機能の追加変更を費用がかかる専用メーカーに頼ることなく自前でできないかと思ったからです。今では当たり前のことを黎明期には様々なチャレンジをしたことを思い出します。どうして昔のことを思いだしたのか?それは、先日朝日の投書欄にこんな投稿があったからです。

この様な好奇心旺盛な高齢者の方はともかく、一般的に高齢者はデジタルデバイド層に分類されています。デジタルデバイトとはデジタル社会に対応できず、恩恵に浴せないことを言います。

それには様々な理由があり、年齢もその一つです。面倒な操作をすることが難しい高齢者は、空いているセルフレジではなく、列を作っている有人レジを利用する傾向にあります。

 

折角設備投資したのに使ってもらえないのでは困る店側が、セルフレジを利用するとポイントを5倍にするキャンペーンを行い、店のスタッフがついて丁寧に教えたところ、高齢者が積極的に使うようになってくれたとのこと。バーコードがついていない場合の操作は少し面倒ですが、多くはスキャンするだけの操作なので高齢者の皆さんも慣れてきて、キャンペーン終了後も使ってくれるようになったというニュースがありました。店側は有人レジに必要な人員の削減になり、経費削減、導入効果を実感!デジタルデバイドを跳ね返したのは、技術ではなくポイント増と丁寧に教えることだったとは!丁寧に教えて慣れてくると、上掲の投書にあるような好奇心旺盛な高齢者も現れてきます。

 

一方、マイバックとセットでセルフレジによる万引きが増えてきたという統計もあり、英国の高級店Boothsでは、『UK supermarket Booths to scrap most self-service tills(ほとんどのセルフサービス精算機を廃止)』すると宣言!

人件費削減、効率一辺倒での施策は、時としてこのような事態を生じますが、そうではない試みが出て来ました。オランダが発祥のスローレジと呼ばれるものです。スローレジ?お客さんと会話をしながら、商品をスキャンしてくれ、買い物袋に詰めてくれるというスタッフがいるレジのことです。

人件費削減、手間削減など様々な効率向上が行われてきましたが、これとは逆の動きです。オランダの75歳以上の人は約130万人で、そのうち33%が中程度の孤独を感じているという統計を元に、高齢者の孤独を解消する策の一環として、精算時に店のスタッフと会話をする(会話ができる)スローレジが発想されたとのこと。モタモタ精算していると後ろに続く行列の長さが気になり、急かされている気がしてストレスを感じる高齢者に、時間を気にせずフレンドリーに接することで気持ちよく買い物をしてもらうというこのスローレジ、日本でも取り入れるところが出て来ました。通常のレジ、セルフレジに加え、スローレジを設置し、お客は、自分の好きなところで精算できるというものです。

スタッフと会話しながらなので時間がかかることは最初から分かっているこのレジには、一秒で早く精算したいせっかちな人はここには並びません。そうすることで、高齢者が慣れないスキャン操作やノロノロと小銭を取り出すことに気がひけることも解消され、イライラ感を募らせた精算待ちの人からの厳しい視線を浴びせられることもありません。レジで戸惑っている姿を見られたくないという気持ちが生じてお店から足が遠のいてしまい、高齢者の社会的な孤立になってしまう事態も避けられる可能性もあります。社会的孤立状態になると、ケガや病気の悪化などがあっても周囲の人に気付いてもらいづらくなり、さらに外との接点が減り、活動量が減り、フレイル状態に陥ってしまうこともあります。単にレジ待ち、レジ操作、効率だけの問題ではなく、スローレジは、高齢者が社会と接点を持つことに寄与することは間違いないでしょう。

 

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