病院の待ち時間を利用して毎月送られてくるある冊子を読んでいたところ❝患者から学ぶ新薬開発❞なるタイトルを見つけました。

面白そうなので読んでみました。医師が治療効果として見る数字に基づいた定量的な評価ではない患者および患者家族の見方(定性的な日常的視点)から、目からウロコな発見が紹介されていました。また、数百億単位のお金と長期間厳密な管理が求められる治験が必要な新薬を作るという従来型のアプローチではなく、既存の薬の持っている薬効とは違う薬効を新たに見つけるドラッグリポジショニング(ドラッグリプロファイリングともいう)について書かれていました。

 

今や、日本の医療費は40兆円を超え、国の予算の3分の1を超える危機的状況になっていますが、その医療費に占める薬剤費の割合が大きいことを示すグラフがあります。

ドラッグリポジショニングをして、既存薬の新たな用途を見つけることができれば、医療費削減に寄与することが期待できます。しかし、そんなことができる(ある)のでしょうか?実は、昔からありました。丸山ワクチンです。当時は、ドラッグリポジショニングなどというハイカラな言葉ありませんでしたが、ドラッグリポジショニングの走りといえましょう。

 

この薬の名前はSSM(Specific Substance MARUYAMA)、皮膚結核の治療薬でした。その後、肺結核の治療にも使われ、効果を示しました。結核治療に好成績を収めたことから、結核菌と同属の原因菌による病気にも効くのではないかとしてハンセン病の治療にも使われました。これは正にドラッグリポジショニングの発想です。結核の治療にあたっていた丸山千里医師は結核やハンセン病の療養所には、ガン患者がいないことに気づき、SSMの何かがガンを抑制しているのではないかと思うようになり、協力してくれる医師達に頼んで臨床に使い始めました。私の母親も世話になった昔からあるガンの免疫治療薬丸山ワクチンがその成果です。

 

ポピュラーなところではバイアグラでしょうか。狭心症治療薬として開発された冠動脈拡張作用のあるこの薬は、その作用が男性機能の衰えを回復させる作用を持つのではないかとして研究され、ED治療薬として製品化されました。眼科でも網膜に酸素が不足する疾患の場合、網膜に新生血管ができ酸素を補おうとします。このため、視力障害を起こしてしまいます。この新生血管を抑制するためにある種の抗がん剤が使われますが、眼科治療に抗がん剤を使うとは驚きました。これもドラッグリポジショニングの発想でしょう。また、育毛剤もドラッグリポジショニングの結果です。頭髪が少ないことを気にする人に朗報となりましたが、血管拡張作用のある高血圧治療薬、前立腺肥大症の治療薬が、ひょっとしたら育毛を促進してくれるのではないかと思ったことから作られました。

 

バイアグラ、育毛剤は生死に関わるものではなく、重要性は低いものですが、丸山ワクチンはじめ、抗がん剤が効きにくい前立腺ガンに有効な効き目を示す既存薬の新しい薬効の発見など、役に立つドラッグリポジショニングの成果が生まれつつあります。これによって薬剤開発費の元を取るために薬価が押し上げられる要因がなくなり、薬価を抑えることができるはずです。医療費に占める薬剤費が減れば、40兆円を超える医療費削減に少しは寄与できるのではないかと思います。

 

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