電子処方箋、開始1年で導入6%…都内の病院長は「お薬手帳で確認しておりメリット感じない」と明言。デジタル化を進める河野デジタル大臣が目をむきそうな衝撃的なタイトルの記事が読売オンラインで紹介されていました(2024/2/4)。

今日はこれを取り上げます。

『お薬手帳』は、1993年から導入されたので、もう30年以上を経て広く浸透し使われています。お薬手帳が導入されたきっかけは、日本国内の患者15人が別々の病院から抗ウイルス剤と抗癌剤の処方を受け、併用使用して死亡したソリブジン事件がきっかけでした。2年後の1995年に発生した阪神・淡路大震災では、カルテや診察券が焼失してもお薬手帳があれば処方箋なしで薬を受け取れたという実績があり、災害時の対策としても有効として認知されて急速に普及していったという経緯があります。2011年の東日本大震災においても、災害時のお薬手帳の価値が再認識されました。

 

お薬手帳発足時の1993年当時は、今のような隅々までネットワークが浸透した社会ではなかったものの、お薬手帳を考えた官僚・有識者たちにデジタル化社会到来を予想する先見の明があれば、国の諸制度をデジタル化する施策のなかに、お薬手帳を電子的に取り扱う構想が作られていたのにと思います。現場を知らず、実務経験のない官僚&有識者と称する評論家たちに、そんなない物ねだりをしても仕方ない?しかし、小渕さんが総理大臣のときに発表したe-japan構想がありました。

総務省のホームページにある『我が国のIT戦力の歩み』によれば、2006年以降、ユビキタス社会の到来を予測しています。このユビキタス構想、パロアルト研究所のMark Weiser氏が1991年に発表したThe Computer for the 21st Centuryに書かれているものですが、日本ではTRON提唱者の坂村健が提唱したことで広く知られていました。このユビキタス社会の到来を予測していたのに、彼らのユビキタス構想の中に1993年以降既に広く行き渡っていたお薬手帳をその環境で運用しようというアイデアはなかったのか?それともユビキタス社会を実現するための技術開発、インフラ整備が必要なことを理解し、それらに必要な予算まで考えてはいなかった?現場を知らず、集めた情報を机上で整理している学識経験者と称する皆さんの限界・・・絵に描いた餅を承知で、答申を受けつけた官僚もどうしょうもありません。

 

なお、読売オンラインの記事では、電子処方箋の導入開始一年となっていますが、日経XTECHの記事によれば2016年4月から解禁となっていて、地域医療連携ネットワークなどの実施環境が整った地域から順次運用を開始するとなっていました。

2016年4月から順次運用となっていたものが、7年も経った2023年から運用開始?なんだかよく分かりません。この7年間に環境が整った地域から順次ということなので、実際に実施したところはあったのでしょうか?その辺の情報はなにもなく、最初に掲げた実施一年での導入率が6%ということだけ聞いても、①準備が足りないのか、②導入のメリットを感じないのか、③既に浸透しているお薬手帳で問題ないと考えている医療機関、薬局が多いのかの推測ができません。推測できないので、普及するための施策も浮かびませんが、何十年にも亘って使われなじんでいるお薬手帳制度を電子処方箋システムに置き換えるための地ならしをしないまま、デジタル化社会になった今、これを使うのが当然だ!というお上の発想を押し付ければイケルと考えた政府とその施策を作った官僚の判断の甘さ、奢った姿勢を大いに反省すべきでしょう。なお、電子処方箋システムについては別途書く予定です。

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