師団長はじめ、幹部を乗せた陸上自衛隊のヘリが、宮古島沖で墜落したのは昨年の4月6日でした。

当時、近くに中国海軍の艦艇、航空機がいたことから誤射されたのではないかという情報が流れたことがありましたが、単純に陸自ヘリの単独墜落事故でした。この機体はエンジンが2基搭載されていて、片方のエンジンが不調でも、残ったもう一つのエンジンの出力を上げて近くの陸地まで飛び、着陸できるような設計になっています。フェールセーフが設計に反映されているということです。

 

しかし、せっかくのこのフェールセーフ機構でしたが、朝日新聞(2024/1/27)によれば、今回の事故は、片方のエンジンが不調になった際のパイロットの操作に問題がありました。正しい手順は、不調になったエンジンを切り、正常な方のエンジンの出力をあげる操作をしなければならないところを、不調のエンジンではなく、正常に動いていた方のエンジンを切ってしまいました。

FDR(Flight Data Recorder)には、異常が起きたエンジンの出力が次第に落ちてきたことを示すデータがあり、逆に正常なエンジンの出力が突然ゼロになったというデータが残っていたそうです。また、正常な方のエンジンを切ってしまったという音声データが残っていたとのこと。

 

明らかにパイロットの操作ミスが分かるデータが残っているのに、防衛省は『誤操作したことを直接裏付けるデータは見つかっておらず、機体のトラブルが原因になった可能性は捨てきれない』との見解。如何にして批判を避け、できるだけ責任を軽く済ませたい意図であることが分かります。こんな姿勢では、有効な再発防止策が出て来ませんが、それはともかく、これをユーザインターフェイスの視点でみようと思います。

 

2つのエンジンのスイッチが隣り合わせなのか否かは不明ですが、異常より正常な状態で飛行することの方が圧倒的に多いことを前提にスイッチ類のレイアウトをするなら、同じ機能を持ったスイッチは、隣り合っていた方が機能毎に纏めてレイアウトするいう設計思想と思えます。しかし、私が情報システム(画面設計、画面遷移)を考える際には、押し間違えが重大な事故につながる可能性があるものは、できるだけ隣り合わせにしない/押された場合には警告or確認メッセージを表示するようにしました。医療系の情報システムは、漫然とした操作によって重大な事故を引き起こす可能性があるからです。

 

例えば、患者さんがアスピリン喘息であり、通常の解熱鎮痛剤では重症発作を起こすことから、解熱のため、副腎皮質ホルモンのサクシゾンを処方しようと電子カルテの処方機能で“サクシ”と入力。薬剤名の先頭に❝サクシ❞を持つ薬が一覧に表示されましたが、医師は副腎皮質ホルモンのサクシゾンではなく、筋弛緩剤のサクシンを誤って選択・・・患者が死亡したという事件がありました。一覧表示された中から一つを選ぶという操作は、ヘリの2つのエンジン起動・停止スイッチが隣り合わせの状態と同じです。操作・選択をした際に、意識してそうしたのかor誤ってそうしたのかが分からないので、警告メッセージを表示するようにし、指定ミスに気が付くきっかけを与えるようにします。この時、漫然とEnterキーを押してしまっても安全側に倒れるようにします。

意識してそうしたのか誤ってそうしたのかをチェックしなくても、選択できないようにすれば良いのではないか?という意見もありますが、医師の判断で緊急避難的に処方する場合もあることを考慮したユーザインターフェイスにしました。なお、この死亡事故を受けて厚労省のホームページには、以下のような警告が掲載されています。しかし、毒薬とは!

人間を扱う医療ではない機械を取り扱う制御系の問題である陸自ヘリ事故では、片側のエンジン不調で次第に出力が落ちてきている状態で、緊急避難的に正常な方のエンジンを切ることはあり得ず、パイロットは誤って正常な方のエンジンを切るスイッチをONにした場合には、その操作を無効にし、ヘリの操作画面に『片側エンジン不調な状態で正常なエンジンは止めてはいけない』という趣旨の警告メッセージをフラッシング表示し、音声でもその旨指摘する機能を付いていれば、パイロットは誤操作に気が付き、今回の事故は防げたと思います。FDRには、エンジンの正常不調の記録が残っていることからこの制御のために必要な情報は得られるとして、手順を考えると以下のとおりです。

①エンジン停止SWON
②停止を指定されていないエンジンは正常に動いているか

③正常に動いている⇒停止指示のあったエンジンを停止

④正常に動いていない⇒警告メッセージを出し、すぐには指示を受け付けない

これにより、片側のエンジン不調時に誤って正常なエンジンを停止する操作ミスは解消されます。

 

広義のユーザインターフェイス、どの分野、どの業務にも必要な知識だと思います。

 

※質問はosugisama@gmail.comにどうぞ。

※リブログを除き、本ブログの無断転載、流用を禁じます。