DXブームに乗せられ、必要性を吟味せず、既存システムとの整合性も考慮せず、会社としてのシステム整備方針もなく、全体を俯瞰したスケジュールもなく、システムとは名ばかりの身の回り&当面の作業をパソコンで動かす事例が多数紹介されています。専門部署や外部業者に頼んでいては、時間も費用も掛かるので、ノ-コード、ローコードを使って自分でやりたいことをパソコンでやってしまおうということですが、ブームを煽るテレビのCMも見かけます。

豊川悦司演じる部長が、自ら画面を操作し、必要とする視点の情報分析をする機能を作ってしまうというものです。

それで良いのか?

 

このブログでは、会社としてのシステム整備計画なく、五月雨的に身の回りの作業をコンピュータで処理することの問題を指摘してきましたが、昭和57年前後にあったOAブーム、SISブームの際も同じでした。当時のビジネスショウ、データショウは各社軒並みに前面にOA、SISを打ち出していたことを思い出します。当時、今でもできているところが少ない『質量ともに大変なSIS構築』の大変さを知ってか知らずか、タレントの田原俊彦に『社長、うちもSISをやりましょう』などと連呼させていたことを思い出しますが、今のDXブームも似たようなものです。まさに付和雷同!

OAブーム当時は、パラメタ言語、第四世代言語などという呼び方でしたが、今のノ-コード、ローコードに相当するものです。それを使って作られたシステム(システムとは言えず、ツールですが)は、作った者の異動・転勤・退職などで保守されないまま放置され、野良アプリとなってしまいました。当時と今の違いは、パソコンのハードウェアの高性能化、低価格化、多種多様なソフトウェアの登場ですが、確かにやりたいことがプログラムを書くことなく開発支援ツールが示す画面を操作するだけで作れる環境は格段に良くなっていることは確かです。汎用機の下での対話型業務アプリ開発環境を作り、ビジネスショウ、データショウで発表してきた経験からすると、操作性というか使い勝手の自由度が何倍にもなっていると感じます。そもそも、CUIではなくGUIということなので、利用する者のスキルレベルのハードルが格段に下がったと言えます。

 

OAブーム時代とは比較にならないハードウェア、ソフトウェア環境になり、DXブームで開発需要があることから、各社から高機能な開発支援ツールが発表され、その案内のメールが導入成功例と共に頻繁に来ます。開発需要を社内のリソースで賄えればそれに越したことはなく、現場でシステムを作ってしまおうという気運が出てくるのはやむを得ないかもしれません。しかし、落とし穴があります。それは、OAブーム時代で起きたEUC(End User Computing)、EUD(End-User Develpoment)が教訓になります。上述の野良アプリです。会社としての整備方針なく、既存システムとの役割分担もなく、身の回りの作業を当時黎明期であったパソコンを使って処理することで、効率が上がったという事例が多数発表され、花王のように『OAの花王』とまで言われるところまで現れました。多くの失敗があるのに、僅かな成功例が喧伝され、OA化成功の秘訣解説本などが売れ、セミナも目白押しだった当時を思い出しますが、OAをDXと言い換えれば、今も同じ状況です。猫も杓子もOAOAと叫ばれた当時、コンピュータメーカのSE部門にOAシステム部ができましたが、DXDXと騒がれる今、DX推進本部などを作る企業が出てきています。同じ現象だと思いますが、OAがいつの間にか話題にならなくなったように、DXもやがてそうなる可能性が高いのではないかと思います。

 

DXという名前はDigital Transformationの頭文字ですが、この英語をそのまま訳すとデジタル革命、デジタル技術を使って企業や組織が情報技術を戦略的に活用し、業務プロセスや組織全体を改革して競争力を向上させることを指向しているということになります。あれ?『デジタル技術を使って企業や組織が情報技術を戦略的に活用し、業務プロセスや組織全体を改革して競争力を向上させることを指向』とは、1990年代前半に言われていたISAの方針の下に構築する戦略情報システム(SIS)と同じことではないか?明確なビジョンと技術を持ったCIOとその指揮下で動く優秀な部下がいて、予算処置をするCEOが采配を振るい、戦略情報システムを構築している企業だったら、DXブームを冷ややかに見ていることでしょう。だって、DXDXなどと浮足立つ必要がないのだから!

 

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