メインフレーム時代の話で恐縮ですが、大量の印刷物を出力するラインプリンタという周辺機器がありました。

毎分何行印字できるかというのがラインプリンタの性能指標でしたが、コンピュータ周辺機器は一般的にディスクでmsecの単位、メモリではμsecという単位で動きます。機器構成の中に処理速度の単位が、分/msec/μsecという桁が違う周辺機器が混在する環境で、これらの速度差を埋める機能としてスプール機能がありました。IBMはじめどこのメインフレーム向けOSでもありました・・・と思って書き始める前にもしかして?と思って調べたら、なんとWindowsにもありました。

主に、個人で使うパソコン用OSのWindowsにスプール機能が必要?ネットワークプリンタとして部署で共用する使い方はあるかもしれませんが、ペーパーレスの今、紙に印字して見るのではなく、画面で見る時代。この点からもスプール機能が必要とは思えませんが、今日は敢えてスプールを取り上げます。

 

典型的なスプール機能に、分単位の性能のラインプリンタによる全体のスループットの低下が起きないようにするため、msecで動くディスクを仮想的にラインプリンタと見なす使い方がありました。バッチ処理主体だった頃はこの機能の恩恵は大きかったと思います。

ラインプリンタのように高価で通常一台しかない機器を有効に使い、速度差を埋めて待ち時間を少なくしてスループットを挙げるためのスプール機能ですが、言い換えれば生産性を上げるための工夫です。製造業の工程管理でいうところのPERTに似ています。『一つ前の工程が終わらないと、それに続く次の工程が始まらない』という依存関係がある一連の作業工程を連続して処理(作業)していったときに、所要時間が最長となるような経路のことをクリティカルパスと呼び、最長となる最たる要因をクリティカルポイントと呼んでいました。上述のラインプリンタは正にこのクリティカルポイントに相当します。心臓部というか根底の理論であるPERT(パート/Program Evaluation and Review Technique)の歴史は古く、1958年、アメリカ海軍のポラリス潜水艦発射弾道ミサイル開発プロジェクトを効率よく進めるために考え出された技法です。それ以降、この技法の汎用性が評価され、主にたくさんの作業プロセスを持つ製造業に数多く適用されてきました。


実は、医療業界でも使います。しかし、クリティカルパスではなくクリニカルパスと言っています。製造業に関係している方々は、『クリニカルパス?クリティカルパスの間違えでしょう』と言います。最近ではなくなりましたが、クリニカルパスという言葉が浸透していなかった10数年前には医療系SEでさえも『杉浦さん、それはクリティカルパスと言うんですよ!』と教えてくれたものです。狭い領域にいて外界を知らない井の中の蛙状態な方々がいるということですが、我々は常に視野広く、アンテナを高くしなければならないこと再認識しました。もちろん、クリティカルパスは実務でやってきましたが、そのSEにはクリティカルパスにつき、教えておきました!

 

クリティカルパスを見つける作業は、生産性を上げるために工程の順番や所要時間を考え、それをフローで示し、作業開始から終わりまでの時間的・効率的な評価指標の下で、最適化を検討する際に行っていました。基本となる理論は、上述のPERT技法です。昔は8mmカメラでコマ撮りして、どの作業にどのくらいの時間を要しているかを調べ、改善・改革の根拠にしましたが、今はビデオカメラ、デジカメが使えるので簡単にできます。あるプロジェクトで、ビデオカメラを使って医師の診察状況を観察し、どの作業にどのくらいの時間を要しているかを調べたことがあります。医師が患者を呼び、患者が診察室に入ってくるまでの間に、どんな作業をしているのかを動画に撮り、キャプチャした画像を以下に。

①当該患者のカルテを開く、
②パラパラとめくる
③過去の検査結果、所見、処方を見る、
④今日の検査結果を見る、
など一連の作業を行い、患者を診る前に状況を確認していることがよく分かります。

次に、

⑤診察室に入って来た患者を見る(観察する=望診)

⑥患者を問診

⑦所見を記載

⑧所見に基づき処方

⑨患者に説明/患者からの質問があれば回答

⑩終了

この様にして診察開始から終了まで、作業順とその内容を確認して、診察作業の生産性を向上させるための方法、画面のレイアウト、画面遷移を検討しました。この方法(考え方)は、院内業務分析の全ての作業でも使いましたが、その結果をシステムの仕様に反映しました。速度差を埋める機能⇒生産性向上の発想⇒システムの仕様に反映という、風が吹けば桶屋が儲かる的結論でした。

 

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