DXの意図しているところ、それを実現するために必要な有形無形な環境の整備を理解しているのかどうかわかりませんが、自治体DXなどと何かにDXをつける中身のない盛り上がりがあります。昨年11月の話ですが、武見厚労相曰く『DXで医療界を動かす』!だそうです。

岸田さんが本部長の医療DX推進本部を立ち上げたことに呼応したようですが、厚生労働省のホームページにも能書きが載っていました。

例によって専門家と称する泥をかぶった実務経験のない机上の空論家たちが、DX化を推進しないとその損失が12兆円にもなる等と主張しています。東京五輪や大阪万博の効果を何兆円と見積もっていたのと同様、明確な因果関係なく何でもかんでも効果に参入した結果でしょう。そもそも終わった後にその効果の検証をしたことがないし、メディアも追及しません。効果を力説した専門家たちはそれで平気というところが不愉快なところです。それはともかく、古くはソフトウェアクライシスがあり、2000年問題がありました。もちろん、大山鳴動して鼠一匹の状態でしたが、誰が何の意図で仕掛るのか分かりませんが、この様な捕らぬ狸の皮算用がまかり通ります。

 

これに迎合した商魂たくましい講演、セミナ、出版もあり、視聴率upを目論んでバラエティー番組で取上げられ、素人コメンテータが『バスに乗り遅れるな』などとまくし立てます。情報を批判的にみる習慣のない善良な市民はこれに乗せられてしまい、ポリシ―を持たない烏合の衆となり、騒ぎ立てます。

烏合の衆 さん

それが仕掛ける方の狙いですが、ドイツの哲学者ニーチェが『個人が狂うことはあまりないが、集団はだいたい狂っている』と言ったような事態になります。もちろん、ブームに乗せられた烏合の衆が集団に相当します。

 

さて、DXとはなんでしょう。スウェーデンの偉い先生が提唱した概念だそうですが、趣旨をそのまま紹介すると・・・ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるというものです。ピンときませんが、ITの浸透が社会生活に良い影響を及ぼすと解釈し、SUICAの便利さや様々なデジタル環境をみればなるほどと思います。しかし、DXという言葉が出て来る以前からそのようになっていて、2000年前半に東大の坂村健が提唱したユビキタスの概念に代表されるように決して新しい概念ではなく、驚くことも慌てることもない昔からのある概念だと気が付く必要があります。

 

そもそも、『ITの浸透が、生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる』ようにするのは簡単ではありません。対象となる業務は複雑に入り組んでおり、それは新しい技術や製品があれば当該業務をIT化できるという単純なものではないからです。IT化の対象となる業務が整理整頓され、その業務に従事する皆さんの仕事の仕方、意識がITを使った新しい仕事の仕方を理解し順応しなければならず、従前からの仕事の仕方をITで代替えするという性質ものではないからです。その伝で私が長年取り組んできた医療業務を俯瞰すると、そう簡単に医療DXはできないことに気が付きます。そうです、医療DXなるものを実現するには医療業務全体を包含する統合情報システムになっていなければなりません。例えば、院内業務の流れを俯瞰すると下図のようになります。

この全てをカバーするシステムが必要になります。そうしなければ、スウェーデンの偉い先生が提唱するDXの概念を満たす解にはなりません。

 

既述のようにこれはDX以前に、昔から言われていた統合情報システムの概念ですが、残念ながら一つの設計コンセプトの下に統合化されたシステム群ではなく、業務種類毎に特化した業務パッケージ(システム)が適宜導入されているのが実態です。その結果、システム相互の連携がスムーズにいかず、機能・情報が重複し、ハンドリングが入ったりしていて統合情報システムの基本であるcreate one time use many timesになっていません。もちろん、トラブル発生時には複数のシステムが関係しているので原因究明に時間を要し、システムが機能を発揮し続ける可用性( availability)が低下してしまいます。

相互に連携した機能(システム)群からなる一気通貫な情報システムが組織の垣根を超えて構築されていればともかく、厚生労働省、自治体、保健所、社会福祉、国公立病院、民間病院、診療所、クリニックとそれを利用する患者に対応する情報システムは統一されることなく、バラバラの状態なのが現状です。この状態のまま医療DXを叫んでも進めることができないことを医療DX政策を立案した厚労省官僚たちは理解しているのでしょうか。

 

官僚たちは、情報システムは専門外として、学識経験者などを集めてアドバイスを求めた思いますが、この有識者と称する皆さんの特徴は、現場で泥をかぶった経験がない大学の先生、シンクタンクの研究者。彼らは『そうなれば良いね』という理想的な展開を考えることはできるかもしれませんが、それを実現するために必要な具体的な提案できません。仮に提案があったとしても、それらが、予算、時間まで勘案した実行可能解なのかは不明です。なぜ?泥をかぶった実戦経験がないからです。『話しは理解したが、それは有限時間・有言予算のなかで実行可能か?』と伺いたいものです。

 

政府はマイナンバカードの普及を急ぎますが、それはこれがデジタル社会の実現のインフラになるからで、医療DXもこの普及がポイントになります。しかし、カードという物理的なものがあっても、それを活かすシステムが動いていなければ意味がありません。『そんなものある!診察券や保険証の代わりに使えるようにする』と言い張るかもしれませんが、そうするために国公立、民間病院、大小を問わず共通してストレスなく使えなければなりません。もちろん、自治体の該当部門もマイナンバカードを使った患者に対する保険料率の適用を間違いなく行うためのシステムが必要になりますが、トラブル続きなのはご案内のとおりです。

 

あるところから、以下のような医療ITとか、病院DXとかをちりばめたメールがきました。

医師の働き方改革に関連するDX化を私にレクチャしてくれるそうですが、DXという言葉が出て来る以前に、この種のことは既にやってきたので、丁重にお断りました。歴史を知らず、視野が狭く、底も浅く、実務で汗をかいたことがなく、机上で仕事をしていた頭でっかち評論家、学者、コンサルタントの皆さんは、もう少し歴史を勉強し、汗にまみれ泥をかぶり地に這いつくばって実務を経験をした方が良いでしょう。皆さん、DXなどという新語に惑わされないように!

 

※質問はosugisama@gmail.comにどうぞ!

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