DXという言葉が飛び交っています。以前は、IOT/ビッグデータ/クラウド/データサイエンテストなどと言葉が飛び交い、そしてAIになり、今は猫も杓子もDXです。DXに向けた課題を日本社会が克服できなかった場合、年間最大12兆円の経済損失が生じるという数字が示されていますが、算出根拠は今までのブーム同様、あれもこれも何でもかんでも組み入れた数字だと思います。こういう計算をした有識者とか学識経験者、著名シンクタンクは自信を持っているのでしょうか?かつて叫ばれたソフトウェアクライシスとか2000年問題が、大山鳴動して鼠一匹で終わったこととの違いは説明できるのでしょうか?騒いだので危機に陥らずに済んだ!と強弁する?

 

それはともかく、総務省のホームページには・・・

誰が書いたのか知りませんが、典型的な役所的文言の羅列です。大騒ぎしたものの普及が進まないマイナンバカードを2兆円もの人参をぶら下げて見せかけの普及率を上げましたが、このマイナンバの普及が、政府が躍起となって騒いでいるDXの要(インフラ)なんでしょう。

 

そもそも垣根を超えて一気通貫に情報を共有し、作業、判断の効率化を図るシステムの構築ができておらず、部門最適の個別業務システムしかないのが自治体。しかもそのシステムは、現場の知恵が反映されず、作業実態を反映していないお仕着せの業務パッケージという情けなさ。それで、どうやってDXを実現するのでしょう?

 

医療機関同様、情報システム部門要員がいない/いてもシステム構築の実戦経験がない/システム企画力もないスタッフがいるのが自治体の情報システム部門の実態。自治体の役人はキャリアアップのために何年かすると部門を代わるということから、情報システムに精通する間もなく他部門に異動してしまうので、経験の積みようがないという問題もあります。しかし、全くの新人でない限り、一般的には2~3年在籍すれば、一人前になるはずです。

 

スリーマンスエキスパート(3month expert)という造語がありますが、その意味は、他での実務経験を持っていれば、3ヵ月あれば、一人前になれるということです。私は、転勤で冷凍空調の技術計算、需要予測と品質管理の統計計算を担当することになったことがあります。FORTRANを使った数値解析、統計計算はともかく、その対象となる冷凍空調機器、業界の知識が皆無でした。例えば、エンタルピーとエントロピーの違いが分かりませんでしたが、上司に弱音を吐いたところ、スリーマンスエキスパートの言わんとしているところを説かれました。なるほどと思い、実務経験を積みながら熱力学入門書から始まり、冷凍空調の専門書、空調設備設計ハンドブックなどを読み漁りました。

その結果、3ヵ月では済まなかったものの、知り得た知識を元に冷凍空調シミュレーションシステムを作り上げることができました。自治体の役人は、ローテーションがあるからという理由で配属になった部門のエキスパートにならない(なれない?)免罪符にしていてはいけません。都庁管理職教育の際、彼らには幾度となくこのことを伝えました。で、どうなった・・・何も変わらない(泣)一過性の教育で変わるほど簡単なことではないことを再認識した次第です。
 

総務省は自治体DX環境を実現したいのなら、人事ローテーションも含め、情報システム部門の強化をしなければならないでしょう。自治体を仕切る総務省はその様に号令をかけなければなりませんが、号令だけではなく予算もつけないと動かない(動けない)ことを理解しているかが懸念材料です。精神論だけではDX環境は実現できません

 

自治体の脆弱さを見越した狡猾なSIベンダは、『さすがによく理解していらっしゃる』などとスタッフを持ち上げながら赤子の手をひねるようにして、部門業務毎に各社各様の業務パッケージを導入させます。その結果、相互の連携/一気通貫性が失われるばかりでなく、運用保守、トラブルシューティング、バージョンupに手間がかかることになってしまいます。手間がかかる=彼らの儲けですが、医療機関の場合にはこんな感じになります。

これを見れば明らかなように、医療機関より業務種類が多く、入り組んでいるうえに更に縦割りという環境のなかで、統一指針なく各部門がそれぞれに業務パッケージを入れるとどうなるのか、自明です。


相互に連携することが難しい情報システム群があちこちにできると、機能が連携し、情報が共有されているDX環境を実現するような一気通貫な情報システムは構築できないでしょう。ISA(情報システム整備規範)を策定し、これに従って計画的にシステムを整備しなければなりません。これを企画できるか否かが、DX成功可否にかかっていると思って良いでしょう。多分できないし、そのうちDXブームが終わるだろうと思っていることでしょう。

 

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