気がついた機能、思いついた使い方、魅力的な新製品、新技術の出現など、動機は様々ですが、システム整備方針(ISA)がないまま、機能単体(業務単位)でシステムを導入してしまうことがあります。どこかの成功事例を見て、CSF(成功要因)が当てはまるのかを調べず、“ウチも”ということで導入を決めてしまうこともあります。いずれも費用対効果に問題を残す相互に連携のとれていないシステム群となるでしょう。これを防ぐにはどうしたら良いでしょう。

 

1990年代前半、ISA(information system architecture)というシステムを整備する際の座右の銘的な規範があり、システムを開発したり導入する際、この規範に照らし、是非を検討しました。時代は変わり、ISAを持っている企業がどれだけあるか分かりませんが、ブームに乗せられたり、付和雷同で十分な検討をしないまま導入してしまい、かけた費用と費やした時間に見合う効果が得られないという事例は後を絶ちません。そもそも、医療機関には効果算定をする習慣がないかも知れません。

 

話しは少し変わりますが、次の話につなげるためなので、了解願います。

小泉さんが総理大臣だったとき、歴代総理が手を付けなかった有力な集票団体である日本医師会が反対する診療費改定に手を付け、受診抑制策を打ち出しました。手を付けた理由は、国の予算の3割近くを占めてきた医療費の削減でしたが、この効き目は大きく、外来患者は大きく減りました。

私のクライアントでも新患が減ってきましたが、この新患の数は空床、手術件数共に、病院の健全経営のための重要な指標。受診抑制によって既存患者だけではなく、新患が減ってきたことは将来の懸念材料になる現象でした。


あまりに受診抑制策が効いたためか、医療機関の倒産が目立つようになったのはこの時期で、医師会の反発も高まっていました。その勢いを削ぐためなのか、2400億円もの巨額な電子カルテ導入補助金制度を作りました。

 

特需とばかり売り込んだベンダの甘言に乗せられた医療機関が多くありました。使い勝手の悪さに閉口しつつも、一旦導入してしまうと後戻りできず、不承不承使っているうちに慣れてしまったとか、使えるところだけ使っているという声を耳にしました。前者は本質的な問題は残ったままになり、後者は費用対効果の点で問題があります。ここで改めて、システム整備規範(ISA)を評価する必要がありそうです。

 

面倒そうですが、そうでもありません。業務全体を俯瞰し、どこまでをシステム化するのかの全体像を描き、それに沿って順次整備し、ブームや新製品、新技術に無定見に乗らない(乗せられない)ことです。ある業務を処理する素晴らしいシステムがあっても、関連する他の業務を処理するシステムが同じ水準で仕上がっていなければバランスが取れず、意味がありません。システムは、テレビや冷蔵庫のように買ってきてコンセントにつなぎ、スイッチを入れれば使えるというものではなく、効果を発揮するための有形無形な環境の醸成が必要です。

 

また、個別に最適な単発システムを寄せ集めても、全体的に見ると最適化された統合情報システムとはなり得ないことも考慮すべきでしょう。設計コンセプトが一緒でないものを寄せ集めても、スムーズな機能、情報の連携ができないどころか、機能、情報の重複が発生し、設備も二重になってしまいます。

 

以上述べてきたことに加えるとすれば、個人クリニックと複数の医師がいる病院という、規模、体制の違いもシステム整備では考慮すべきことです。前者はスキルフルで進取の精神に富んだ一人の医師が、全てを仕切ることができるのに対し、後者は複数の医師のみならず、看護師、検査員、医事会計課員、薬剤師、栄養士など、職種、性格、経験、人生観の違う多くの医療従事者がいて、一筋縄ではいきません。成功事例として個人クリニックが取り上げられる場合がありますが、その延長線で規模の大きな病院でも適用できると考えたら、間違いなく失敗するでしょう。その逆も同じです。理由?CSF(成功要因)が違うからです。

 

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