このブログでは、情報システムを設計してきた経験を踏まえ、ユーザインターフェイス、マンマシンインターフェイスについて取り上げています。年明け早々に羽田で事故がありましたが、滑走路占有監視支援機能が働き、着陸機が接近しているのに離陸予定機や横断機が同じ滑走路に入ったことを検知し、モニター画面に滑走路が黄色、航空機も赤く表示されました。管制官は複数ある画面の一つにその旨の表示があっても、他の画面を見ていたり別の管制作業をしていると、見逃してしまいます。今回はそれでしたが、重大事故は予想されるからこそ当該滑走路が黄色にハイライトされ、航空機が赤色にしたはずでしたが、管制官に注意を向けてもらわなければ宝の持ち腐れ。ユーザインターフェイスの設計者は音声で事態を伝えるか、他の警告音と重ならない音色、周波数の警告音を鳴らす機能を付けるべきでした。

 

今日は別件のUI/MMIが要因の一つになった航空機事故とその原因、対策の紹介です。航空機事故と(私の経験してきた)情報システム設計とは関係するの?と思われる方もいると思いますが、情報システムという範囲にとどまらずに、人間が関わるものには全てユーザインターフェイス、マンマシンインターフェイスというものを考慮すべきという論点です。特に、飛行機の様な設計ミス、運用ルール未整備が大惨事の引き金になるようなものは、エンジンを止めるスイッチが頻繁に使うスイッチの隣にレイアウトされていたりすると、誤って触ってしまう危険があります。実際にそれが原因の航空事故もありましたが、ユーザインターフェイス、マンマシンインターフェイスを狭い領域で考えずに、一般化して考える必要があります。では、はじめます。


事故》
ロシアアイスホッケーチームが乗ったロシア製航空機Yak-42Dが離陸に失敗し、墜落。航空機関士1名を除き全員が死亡。

《経緯》
①離陸するために、ブレーキを踏みながらエンジンの出力を上げた。
②副操縦士がブレーキをリリースしないまま(踏み続けたまま)、滑走を始めた。
③ブレーキがかかった状態なのでなかなか加速せず。
④離陸に必要な速度に達しないまま、滑走路の終わり近くまで来てしまった。
⑤機長は離陸中止を判断。
副操縦士がそれを止めさせた

⑦機長は従い離陸続行。
副操縦士は機長の先輩で飛行時間は多いが、この機種での操縦時間が足りず、この機では機長になれない

⑧離陸強行
⑨十分な離陸速度、高度を確保できないまま離陸。

⑩翼が空港設備に接触。
⑪墜落!
《原因》
・機長、副操縦士共にYAK-40の飛行経験が多いもののYak-42D経験が少なかった。
・YAK-40とYak-42Dのブレーキ機構が異なっていた
・YAK-40は足全体をブレーキペダルに乗せる方式。
・Yak-42Dは自動車と同じく、踵を床につけ、ブレーキペダルを踏む方式。
・副操縦士はYAK-40と同じ要領でYak-42Dのブレーキを操作してしまった。
・ブレーキをかけた状態で滑走を始めてしまった。

(通常、ブレーキをかけて推力を上げ、十分な推力に達した時点でブレーキをリリースする)
・副操縦士は足の神経系に問題を抱えていて戻そうと思ってもできない状態だった。
・そもそも、副操縦士はYAK-40と同じ要領でYak-42Dを操縦していることに気がつかなかった
組織上の序列は、副操縦士は機長の上司であった。
・機長は副操縦士がブレーキペダルを踏んだままであることに気がつかなかった。
《問題》
ブレーキペダルの構造(機構)が違うことの周知が徹底されていなかった
・ブレーキが効いたまま離陸のための滑走をしていることへの有効な警告機能がなかった。
・緊急事態での操作訓練が十分でなかった。
《設計上、考慮すべきこと》
・ブレーキペダルを操作しやすい踵を床につける方式に変更したのは良。
・旧型機との操作感の違いが事故の要因とならないよう、間違えた場合の警告機能を充実させる。
《制度上の改善》
乗機中の機長、副操縦士の関係は、社内の序列よりも優先する。
(副操縦士の指示に従わなかったら、事故は避けられた可能性が高い)
《その他》
・乗務員、特に操縦に関わるスタッフの健康診断を確実に行う。
(副操縦士は足に神経系の疾患を抱えていることを隠していたが、これを発見することができたはず)

 

いろいろな要因、改善点がありますが、最も現実的で効果のある対策は、ブレーキをかけたままで滑走開始ができない仕組みです。この仕組みが故障した場合を考慮し、ブレーキをかけると見やすい位置にあるブレーキランプが点滅する仕組みも装備しておくことで防げたと思われます。情報システムを設計、運用する際にも参考になる事故でした。ご冥福を祈ります。

 

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