製造業では『一つ前の工程が終わらないと、それに続く次の工程が始まらない』という依存関係がある一連の作業工程を連続して処理(作業)していったときに、所要時間が最長となるような経路のことをクリティカルパスと呼び、最長となる最たる要因をクリティカルポイントと呼んでいました。

 

クリティカルパスや、クリティカルポイントは、一つの業務を構成する一連の作業工程の順番やその所要時間を考えてフローで表すことで見つけることができますが、品質を保ったうえで作業開始から終わりまでの所要時間の最小化する工夫・改善が生産性向上になります。基本となる理論は、PERT(パート/Program Evaluation and Review Technique)と呼ばれる技法です。昔は8mmカメラでコマ撮りして、どの作業にどのくらいの時間を要しているかを調べ、改善・改革の根拠にしましたが、今はビデオカメラ、デジカメ(動画)が使えるので簡単にできます。あるプロジェクトで、ビデオカメラを使って医師の診察状況を観察し、どの作業にどのくらいの時間を要しているかを調べたことがあります。キャプチャした画像を以下に。

メモモーションでこれを見ると、医師は診察介助看護師が患者を呼び、患者が診察室に入ってくるまでの間に次の作業をしていることが分かります。
①当該患者のカルテを開く、
②パラパラとめくる、
③過去の検査結果、所見、処方を見る、
④今日の検査結果を見る、
など一連の作業を行い、患者の状況を確認していることがよく分かります。

 

次に診察室に入って来た患者を診察し、過去の履歴を見ながら、患者を問診し、所見を書き、症状にあわせてた処方を記載します。この様にして診察開始から終了まで、作業順とその内容を確認してクリティカルパス、ポイントを発見、是正し、診察作業の生産性を向上させるための方法、画面のレイアウト、画面遷移を検討しました。このPERT法を使った分析は入院患者への処置の作業分析など、全ての作業にも適用しました。

手術が決まった以降、術前に行わなければならない検査や提出物の確認、手術の手順、術後の検査・確認、退院後の術後検査などについて、また、無理無駄、抜けはないかを検討する際にもこの思考方法で臨みました。

 

PERT法は、製造業はもちろん、また医療だけではなく、業界業種と問わず、冒頭に述べた“一つ前の工程が終わらないと、それに続く次の工程が始まらない”という依存関係がある一連の作業工程の業務分析する際に使える汎用的な方法です。医療に使われる場合には“クリティカル”ではなく、診療(クリニック)なので“クリニカル”と言った方が良いだろうということで、“クリティカルパス”ではなく、“クリニカルパス”という言葉を造りました。


この様な経緯を知らない医療関係者は医療業界発祥と思っている方々もいますが、心臓部というか根底の理論であるPERT技法の歴史は古く、1958年、アメリカ海軍のポラリス潜水艦発射弾道ミサイル開発プロジェクトを効率よく進めるために考え出された技法です。それ以降、この技法の汎用性が評価され、主にたくさんの作業プロセスを持つ製造業に数多く適用されてきました。
製造業に関係している方々は、医療業界の皆さんとは逆に『クリニカルパス?クリティカルパスの間違えでしょう』と言います。最近ではなくなりましたが、クリニカルパスという言葉が浸透していなかった20年くらい前には医療系SEでさえも『杉浦さん、それはクリティカルパスと言うんですよ!』と教えてくれたものです。狭い領域にいて外界を知らない井の中の蛙状態な方々がいるということですが、我々は常に視野を広く、アンテナを高くしなければならないということの証左です。


なお、昔は、業界業種を問わず、PERT/クリティカルパスの考え方は業務改善改革をする上でSEは常識的に知っておかなければならない手法でした。今は昔・・・
 

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