ビッグモータの謝罪会見を見た方は多いと思いますが、謝罪のはずがどこか偉そうと感じたのは私だけではないでしょう。故意に傷をつけた社員の責任を追及する時は薄笑いを浮かべ、告訴するとまで発言(あとで撤回)。本来守るべき存在であるはずの社員を糾弾する言葉を連発する一方、自らの責任や関与については、天地神明に誓って不正は知らなかったと強弁する始末。成功した時は、自分の能力、失敗した時は他人のせいorどうにも対応できない想定外の要因と主張する傾向のことを、自己奉仕バイアス(Self-serving bias)と言いますが、正にそれです。

 

それにしても、次から次へと明るみに出てくる前代未聞のビックモータ問題には、驚くと言うよりも呆れます。今の時代、こんな上意下達、気分で決めるトップがいて、その周りを虎の威を借りる狐よろしくゴマすってうまい汁を吸う腰巾着達がたむろして年商5千億を超える大企業があったとは!『前社長が作り上げた卓越したビジネスモデル』と宣わったのは前社長時代に専務だった人物ですが、そのビジネスモデルとは保険会社を巻き込んで顧客を騙して儲けるという詐欺まがいのビジネスモデルでした(そもそもビジネスモデルというか?)。これを卓越したと評したこの新社長、今も強いバイアスがかかっていることをうかがわせますが、これをミルグラム効果と言います。耳慣れないこの言葉ですが、『善良で平凡な人間でも、権力者や権威者に命令されると非人道的な行為にも手を染めることがある』という権力に対する服従傾向のことです。アメとムチを使い分け、『経営陣に盲目的に服従し、忖度することで昇給昇格し、異論を差し挟むと降格減給』という今時、こんな会社があるのかと思わせるいびつな社風が出来上がっていました。

 

しかし、このミルグラム効果、ピンとくるのが北朝鮮、ロシア、中国であり、戦前戦中の日本でした。日本軍が蹂躙した朝鮮、中国で行われた耳をふさぐ目をつぶりたくなるような蛮行は、まさにこの『善良で平凡な人間でも、権力者や権威者に命令されると非人道的な行為にも手を染めることがある』というミルグラム効果で説明がつきます。ナチスのユダヤ人大量虐殺も同じです。

 

もう一つ、この独善的前社長、副社長とその取巻きに言えるのが、バックファイア効果と言えるものです。自分に都合の悪い証拠、信じたくない情報などに直面した時、それを否定して自分の都合の良いように解釈してしまう傾向のことをバックファイア効果と言いますが、不正をやっていても自分の経営姿勢がそうさせるのではなく、個人の問題、現場の問題として片づけてしまおうとする姿勢が、正にそれです。更にその内部通称者を葬り去ることで、耳障り目障りな情報が上がってこないようにしてしまうというバックファイア効果の標本のような経営姿勢だったことが分かります。


ダイエー創業者の中内氏が、『自分が意見を言うと、議論ではなく、結論になってしまう』と語っている記事を読んだことがあります。長年、問答無用で強力(強引?)な率先垂範(悪い意味)での上意下達環境下にいると、知らず知らずのうちに誰も意見を差し挟めない雰囲気が醸成されてしまっていることを如実に表している言葉です。自由闊達さを失ったヒラメ社員ばかりになっては、企業(組織)は活性化しないどころか衰退するでしょう。

 

ビッグモータ事件の今後の展開がどうなるのか分かりませんが、自己奉仕バイアス、ミルグラム効果、バックファイア効果という独断専横な人物が経営トップに君臨し、アメとムチで組織を親衛隊のように作り替えるビッグモータ的体質は、国レベルでは北朝鮮、ミャンマ、中国、ロシアなど多数あります。民間病院の業務改革、改善、システム化のコンサルティングして来たなかで見聞きし、実際に経験しましたが、創業者が牛耳る中小中堅企業、民間病院でも自己奉仕バイアス、ミルグラム効果、バックファイア効果は珍しくなくありました。そして、その独裁者に取り入ってうまい汁を吸う腰巾着たち、多数みかけました。

 

人間のサガかもしれませんが、ゴマをする人生ではなく、鶏頭牛尾ということわざの言わんとするところを理解し、実力に照らしながらですが、誰かに差配されることのない人生を切り開く選択肢もあることをを知っておくのも無駄ではありません。

 

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