先日、テレビを見ていたらどこかの会社がAIを使って古くなって交換が必要な水道管を捜すシステムを紹介していました。へぇ~そんなシステムがあるのかと思いつつ見ていましたが、交換が必要な水道管を見つけるロジックの説明を聞いて分かりました。AIではなく、普通に考えつくシステムでした。AIとは自律的に機能する人工的(artificial)な知能(intelligence)というですが、破裂しそうな老朽化した水道管をピックアップするシステムは、過去のデータを統計的に分析し、様々な因子の寄与率を数値化し、それを元にトラブルを起こす確率が高くなって来た水道管を割り出し、破裂する前に交換するというものです。

 

では、どんなデータを使っているのでしょう?地質、地層、腐食を進ませる微生物、地下水の成分、埋設されている道路を通過する車両の種類とそれから予想される重さと通行量、使っている水道管の材質、雨量、季節etc、少し考えるだけでこれだけあります。これに埋設されている水道管の地図情報があれば、誰でも検知ロジックが作れるはずです。もちろん、外れることもありますが、それはバリアンスとしてフィードバックすれば、貴重なデータとなります。

 

第一次石油ショックがあったのは、昭和48年(1973年)のことですが、この時、3.5馬力~15馬力の業務用冷凍空調機を作っている事業所で技術計算をしていた私は、工場長経由課長から生産計画システムのための先行指標を見つけるよう指示を受けました。私は、データとして建設省(当時)の建築統計月報(3000㎡以下の建築申請情報など)、小形棒鋼、サッシ、エレベータの生産推移、厚板ガラス、コンクリートなどの過去の生産データを大量に集めました。今でいうビッグデータですが、これを多変量解析手法の一つであるステップワイズ分析を使って冷凍空調機の需要を予測し、この数値を生産管理システムの先行指標とし、部材の発注、適正在庫、生産計画などの算出に使いました。このシステムは関連する他のシステムと共に当時の社長賞をもらいましたが、このシステム、今なら『AIが!』というでしょう。


バカげているとは思いますが、猫も杓子もAIとかDXとか騒いでいるので、メディアもこれに便乗して番組を作っていると思います。芸人・タレントたちがシナリオに沿って『すごい』とか『人間が機械に支配される』などとバカげたことを口走ります。それを見ている家庭の皆さんも、得体のしれない変なものが蔓延ってきたのかも知れないと思ってしまいます。煽って興味を惹かせることで視聴率を稼ぐテレビ局としてはそれで成功ですが、実際に情報システムに関わってきた者からすると由々しきというか情けない状況だと思います。


そんな時、ネットをサーフィンしていたら、『あれもAI、これもAI、たぶんAI、きっとAI~』という文言を見つけました。どこかで聴いたことがあるような・・・五木寛之が作詞し、松坂恵子が唄った『愛の水中花』という歌詞に『あれも愛、これも愛、たぶん愛、きっと愛~』という歌があることを思い出しました。普通に考え付く情報システムもAIという枕詞を付ける現状を風刺したのでしょう。

最近、日本語で書かれた文章を理解し、適宜応答するというChatGPTをはじめとする対話型AIなるものが話題になってきています。何年も前から東大に合格するレベルのシステムを作る『東ロボ君』を開発してきた国立情報研究所の新井紀子先生は、AIではなく統計処理の結果だと言っています。しかし、東大はともかくMARCHに合格できるレベルまでになった東ロボ君はどうしてその様な能力(機能)を持ったのでしょう?それは、50億もの文例を集め、これを統計解析して読解力のロジックを作ったから(新井紀子先生談)だそうです。先生も、東ロボ君は人間を凌駕するようなAIではなく、確率・統計学の領域だとAIvs教科書が読めない子供たちの本の中で明言していました。

もちろん、新聞が煽るような自律的に機能する人工知能によって職業が奪われ、人間は追いやられてしまうというシンギュラリティ現象は夢でしかないでしょう。
 
『あれもAI、これもAI、たぶんAI、きっとAI~』という軽薄な雰囲気を嘆きつつ、今日のブログを終わります。

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