他人の証明書が発行されたとか、自分の保険証だと思ったら他人のものに紐づけらていて全額負担になってしまった等々、性質上、厳重に管理されていなければならないマイナンバシステムの不具合が次々と出てきています。政府は、その多くをヒューマンエラーとしています。市役所の担当者が別人の顔写真を貼り付けてしまったなどはそれに当たりますが、緊張感なく注意力が落ちて来るとその様なことが発生することはよく知られています。また、作業の品質が人に依存することも知られています。職業柄、様々な人を見てきましたが俗にいうチャランポランな性格な人がそれに当たります。持って生まれた性格、行動で、緻密な作業には適さない人で、教育・訓練によって改善(矯正?)は可能ですが、本質的な部分は治らないと思われます。そういう人でも務まる職種に転職してもらいましょう。あれば良いのですが・・・

 

さて、マイナンバシステムの原因とされているヒューマンエラーです。今日はそれを取り上げます。上述のようにその傾向がある人もいますが、いわゆるポカをすることは誰でも経験したことがあるでしょう。これが本来のヒューマンエラーです。朝日新聞の5/30に紹介されていたマイナンバのトラブルは以下のとおりですが、これはシステムのトラブルでありヒューマンエラーではありません。

どうしてそうなったのか?それがデータ作成時の担当者(ヒューマン)エラーです。システムは処理対象のデータは正しいものとして処理しますが、そのデータを登録時に間違いが入り込まないようにする工夫がされていたかどうかが問題になります。業界用語で言えばクリーンデータと言い、間違いのない正しいデータのことです。例えば、マイナンバカードに本人の写真を貼りつける際に、別人の写真を貼りつけてしまったり、本人の保険証情報、銀行情報を紐づける際に他人のそれが紐づけられないようにするということです。

 

個人情報の最たる保険証、診察券、銀行、免許証などが、他人のものになっていたり、自分のものが他人に紐づけられてしまったら、大混乱になることは当たり前のことで、マイナンバシステムを推進する関係者は理解していたはずです。しかし、数えきれないミスが発覚しているのが現状。関係者は、本人情報が担保されることにどのくらい気を使ってシステムの仕様を考え、作り、テストをしたかが問われます。

 

入力時には必ずクリーンデータになるよう、システム設計時には入力データが正しく入力されたかのチェックを行う処理を入れておくのがシステムを設計するSEの腕のみせどころです。例えば、桁数や単位を間違えたなどのチェックです。コンビニで、こんな発注ミスがありました。

9本なのに0を2つ付けてしまい900本として発注してしまったということです。また、あるところでは、1箱単位の発注なのに、箱数を個数と勘違いして発注!大量の納品に慌てたとか、1ダース単位を本数と間違えたという似たような単位間違いが珍しくなく発生しています。私の場合はいつもとは違う数字が入力された場合には、確認メッセージを表示するようにし、入力時点で間違いのなクリーンデータになっていることを保証しました。

マイナンバシステムを請け負った富士通japanのSE達はどんな仕様にしたのか分かりませんが、必ず行うデザインレビューをしたのかが問われます。スクラッチでのシステム開発をする知識・経験が乏しく、ミスが混入することを避けるための仕掛けが十分でなくても、多くの部門が参加して行うデザインレビューをしていれば、見逃されることはありません。レビューの過程はデザインレビュー報告書に細大漏らさず記載されているので、誰が参加してどんな質疑応答が交わされたのかが一目瞭然。問題が起きればその原因追及と再発防止に役立てることができます。マイナンバシステムも同じことです。そうすれば、こんなことにはなりません。(デザインレビューの実際については、過去に何回も取り上げていますので、そちらをご覧ください)。


今回のシステムトラブル要因を列挙すると、以下のとおりです。

①SIerとしての富士通japanの力がなかった

②協力会社を含む富士通japanに所属するSEの知識経験がなかった

③入口でデータをクリーンにする発想がなかった

④デザインレビューが行われなかったか、おざなりだった

⑤④の結果、いい加減な仕様が見逃された

⑥テストがいい加減だった(実務に則したテストをしなかった)

⑦発注側に納品物をチェックする知識経験がなかった

 

現在のデジタル庁の職員は約900人とのことですが、人口550万人シンガポールのデジタル庁の職員は3500人(河野デジタル相談)。河野さんは人材を増やすとしていますが、人数ではなく実戦経験豊富な人が必要です。能書きを垂れる評論家、泥をかぶったことがない有識者と称する素人では❝船頭多くして舟、山に登る❞になってしまいます。今必要なのは評論家的な船頭ではなく、知力・体力のある漕ぎ手が必要です。

 

ヒューマンエラではなく、システム設計能力エラーと発注側の知識経験がないことが今回の根本原因です。

 

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