1990年代前半に統一された設計思想、方針(ISA/Information System Architecture)の下でシステムを開発し、完成の暁には統合情報システムが出来上がるという地に足が付いた動きがありました。しかし、いつの間にか下火になり今は猫も杓子もDX!メディアが煽り、有識者と称する実務経験のない皆さんが2025年の壁などという言葉を作り出しています。

付和雷同な皆さんによって、統一性のない思い付き&必然性を吟味しないままの多くのシステムが開発されつつあり、開発量に見合う要員が足りず、一般社員を戦力にするためにローコード、ノーコードというプログラミングの専門知識を持たない者でもプログラムが組めるという仕掛けも出回っています。粗製乱造な寿命の短いシステムが社内外に氾濫し、やがてゴミになる運命であることを理解している人が何人いるのでしょう。この様なバカげた状況にあることを憂いつつ、必然性のあるシステムを現場主導で開発してきた経験を紹介します。

 

なぜ現場なのか,従来のシステム導入の問題点

いままでシステムを導入する場合には、企画~設計製造テスト~運用~効果検証までベンダに任せるのが普通でした。しかしこれでは使いやすいシステムはできません。どうしてでしょう?システムを作る側から見た問題点をいくつか挙げると以下のようになります。

①顧客の要望を十分咀嚼できない。

②陰に隠れている部分を聞き出せない。

③顧客の理解度に応じた説明ができない。

④丸投げ体質で当事者意識が薄い

特に、旧態依然とした仕事の仕方が根付いている自治体/病院は難しいだろうと思います。

 

また、ベンダやコンサル会社は、一般的に経営層・管理層におざなりのヒアリングをおこなうだけで、実際に作業に携わっている現場の人からは聞きとりをしないという傾向があります。理事長、院長、事務長、婦長(師長)など経営層、管理層に聞き,総看護師(婦)長あたりに聞くだけでは現場の声を仕様に反映することはできません。

 

システムインテグレーター(SIer)は、我々は専門家だから任せろと言いますが、患者という生身の人間を対象にしている病院の場合、そう簡単にはいきません。病院業務に精通するのはかなり難しいことです。例えば,カルテには作業に必要な多種多様なメモ/ラベルが貼り付けられています。私が担当した病院の場合、その数は約300種類ありましたが、調べ切れないし、キリがありません。にわか勉強で理解するのは間違いの元になります。それならこの際、現場の看護師/検査員/医事会計員にやってもらおう!そう考えました。

 

現場が仕様を作ったほうがいいと考えた背景

顧客の方は、自分達で仕様を作るのは難しいだろうと思い込んでいました。しかし、難しいというか慣れていないのは、纏め方、表現方法、手段だけです。これらをクリアすれば、現場が作れるはずだし、むしろその方が使い勝手が良く、効果の期待できるシステムができると考えました。現場が主導することの最たるメリットは、期待したものと出来上がったものとの差がないと言うことです。自ら決めた仕様なので、いい点がたくさんあります。以下がその主な点です。

①デザインレビューができる

②デバッグができる

③委員以外の職員に教育ができる

④コンセプトを持って説明ができる(プロダクトアウトやトップダウンではない)

⑤自分が産んだシステムなので育てようと思う(エンハンスができる)

もちろん,現場が主導することにデメリットがないわけではありません。なんといっても,現場が主導できるまでに人材を育てる時間と手間がかかります。さらにデメリットとはいえませんが、注意すべき点もあります。それは,どうしても現状是認型に陥りやすいということと、保守層(守旧派)の巻き返しがあるということです。これらに注意しながら,プロジェクトを進める必要があります。

 

病院で仕様を作るときの注意点

システム作りの際には,気をつけなくてはいけない点があります。効果の出ないシステムになってしまう仕様の決め方としては,以下があります。

①やりたいことが不明確なまま,付和雷同でブームに乗って無理やり纏めた仕様

②要不要,軽重問わず,アレもコレもと,何時・誰がどんな場面で使うかわからない機能のてんこ盛りの仕様

③時間がないので,走りながら考えればよいという,もっともらしい論法で適当に纏めた仕様

④現場を知らない開発関係者がおざなりのヒアリングをもとに机上で纏めた仕様

⑤トップの鶴の一声で決まった仕様。逆に,門外漢を逆手に取り,業者に丸投げあるいは「良きに計らえ」で決めた仕様

⑥全体のシナリオなしに局所的に最適化された仕様

こういうことをしてはいけないということです。さらに、病院特有の別の問題があります。

・医師を頂点とした上意下達組織

・変更を嫌う体質

・議論する習慣の欠如(物言えば唇寒し…)

・基本リテラシの不足

・コンピュータリテラシの不足

ここでいう基本リテラシ©という言葉は私が言い出した言葉ですが、IT関連業務に携わる者は言うに及ばず、ビジネスマンとして必須な能力です。ヒアリング(聞き出す能力),ドキュメンテーション(文章で表現する能力),プレゼンテーション(わかりやすく説明する能力),ネゴシエーション(利害を調整する能力)の4つを基本リテラシと呼ぶことにしています。こうした病院に顕著に見られる点を払拭し,改善・改革しなければなりません。上意下達組織、変更を嫌う体質、議論する習慣の欠如に対しては、意識改革が必要だし、基本リテラシの不足、コンピュータリテラシの不足に対しては《How to 教育》が必要になります。

 

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