キルチェーン(kill chain)という言葉があります。これは軍事用語で、敵を探知してから迎撃成功までの以下のプロセスを指すもので、以下のプロセスをたどります。

①目標の探知(検知)

②目標の識別

③武器の種類決定

④目標を攻撃するかどうかの決断

⑤同、命令

⑥目標の破壊

①~⑤までのどれが欠けても⑥は達成できません。攻撃する側がステルス性能に優れた戦闘機なら、①がない(探知されない)ので、キルチェーンが成立せず、敵に気づかれずに攻撃することができます。海上を航行せず海中を移動する潜水艦は、まさに①の探知されにくいという点で、有効な攻撃手段として昔から評価され、海の忍者と言われる所以です。潜水艦は探知されないよう工夫をし、探知する側はソナーなど様々な手段で探知能力を上げますが、イタチごっこです。

 

航空機(戦闘機)の場合も同じです。迎撃するレーダーの性能は年々向上し、数百キロ遠方から向かってくる戦闘機、爆撃機を探知できる性能を持っています。これに対して攻撃する側は素材、正面からの面積をできるだけ小さくするなど、できるだけ探知されないようにしています。ステルスはその性能を高めたもので、それまでに耐戦闘機用のレーダーでは、映らない、映っても小さくて鳥と見間違ってしまう機体になっています。それを極めたのが米軍のF117戦闘爆撃機でしたが、コソボ紛争時に空爆時に撃墜されてしまいました。撃墜された機体は米軍の回収チームによってほとんど持ち去られましたが、幾つか残った機体の一部を調べたロシアはステスル機を探知できるレーダーの開発に着手したようです。その結果、 an F-117 was shot down, forever souring the image of so-called invisible aircraft that have for decades been on top of the US Air Force's agenda.となりましたが、F35戦闘機のパイロット曰く、

レーダーで探知できるからといって、撃墜することはできないとのこと。つまり、キルチェーン①だけがクリアされても、その後の手順がクリアされていない=キルチェーンが成立していないので、問題ないとの見解です。また、

とも言っていて、探知レーダーに照射されていることを察知すると、それを辿って敵の防空網と敵機をピンポイントで特定し、破壊できるそうです。それほど、今のステルス戦闘機は、昔の戦闘機とは違って複数のことを同時に行える能力を持っているということです。

つまり、ステルス機を探している間にF-35は爆弾を落として敵を粉砕できるということです!敵のキルチェーンを成立させないようにしていることが分かります。

 

言わんとしているところは、何か一つが優れていても、あるいは、優れているものが散在していても、それらを連携させないと効果を発揮できないということです。実は、情報システムも全く同じです。複数の優れた技術、製品が単体で存在しても、それらを組合せてシステムとして実装できなければ意味がありません。もちろん、実装されたシステムを使いこなす側のユーザも、機能を熟知し、戸惑うことなく操作ができるように教育、訓練されている必要があります。バラバラに作られた単体システムを寄せ集めても統一された設計思想で作られた統合情報システムはできないませんが、これも同じ理由です。良いシステムがあっても、同じレベルで周りが整備されていなければ、完成度は最も低いレベルに抑えられてしまい、全体のパフォーマンスが上がりません。これは、ドベネックの桶、リービッヒの最小律の教えるところです。

 

このブログで時々取り上げるテーマに統合情報システムがありますが、個々に優れた業務システムが点在していても、業務間でのハンドリングが発生していては、全体としての効率向上は期待できません。一気通貫に機能、情報が連携していなければ、統合情報システムにはなり得ません。キルチェーン(Kill chain)ならぬ、ハンドリングなしのcreate one time use many timesというわけです。

今、馬鹿げたDXブームの真っ最中ですが、内製化とかそれに必要なノーコード、ローコードなどというHowtoに注目するのではなく、全社の全業務をカバーする統合情報システムを構想し、それを実現するためのISA(Information System Architecture)を策定して臨めば、切れ目のない統合情報システムが完成します。まさにキルチェーンの完成です。

 

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