ブログのプロフィールに書いたように、日立製作所で様々な経験を積んだ後、外に出て技術者ではなくコンサルタント稼業になりました。作る側から使う側になったということですが、そこから見えてきたものは、作る側の製品企画、エンハンス計画が本当にユーザの立場、仕事の仕方を踏まえた機能、仕様になっているか(いたか)ということです。前提条件であるハードウェア、ソフトウェア(OS、DB、ネットワーク)はともかく、業務アプリケーションは開発するSEの力量、センスによって出来栄えが違ってきます。システム化対象業務を分析して仕様を決める過程で、システム関係者や管理職からヒアリングするだけではなく、現場を観察して作業実態を把握し、現場からもヒアリングするなど、現場を重視した仕様にしなければ優れたユーザインターフェイス(操作性、画面レイアウト、画面遷移、メッセージetc)を持ったアプリケーションはできません。しかし、業務パッケージで育ってきた最近のSEにはヒアリングする力がありません。それどころか、まともなドキュメントが書けずプレゼンテーションも下手。もっと言えば、まともな日本語が話せなくなってきているように感じます。

そんなSEにでき損ないの仕様を纏めてもらうよりも、業務を知っている現場を少し教育して彼らに作ってもらった方が良いのではないかと思ったのが、現場主導で仕様を纏める私の方法です。

これについて幾つかの機会を得て講演したことがありますが、講演後に感想メールをいただくことがあります。

今日はそのうちの幾つかを私の返信と共に紹介します。

 

感想1

提供する側も業務パッケージのノンカスタマイズ・量販を指向し、多少使い勝手は犠牲にしても世の中の標準で早く安く導入した方がメリットがあるのではないか

回答1
都庁のコンサルをしていましたが、この時、暗黙の条件がパッケージでした。しかし、できるだけ汎用化して適用範囲を広げたいのがパッケージの宿命です。それは取りも直さず、実態を踏まえない多機能、高機能競争となり、決してユーザのためにはならないということです。しかし、“パッケージ=安上がり、稼働までの時間が短い”というベンダの宣伝通りの先入観が植付けられているので、パッケージ至上主義になっているのではないかと思います。結局、高いモノにつき、損するのはユーザで、自治体の場合には、回り回って税金を納めている市民が損をするということになると思います。
感想2
誰かから押し付けられたもの、使い勝手が悪くても我慢して使うもの、では現場の活力を失う結果になる。
回答2

その通りです。使っているうちに慣れてしまうという説明をするベンダがいますが、不具合を慣れでカバーするというふざけた話です。

感想3

現場主導、現場のSE化という話は、昔のEUC、EUDとは違うのか

回答3

完成度が低く、使い勝手の悪い業務パッケージのお仕着せ=プロダクトアウトで失敗したので、インサイドアウトにシフトしようという反省になり、出てきた概念がEUC(End User Computing)であり、更に進めてEUD(End User Depelopment 
Development)でした。当時、パソコンの一人一台化も相まって一時期ブームになりましたが、何時の頃からか消え失せてしまいました。本物だったらブームが去っても定着化進んで一般化するので特に話題にならなくなっても問題ないという話しもありますが、EUCとは一時期のブームだったのかもしれません。EUC、EUDのブームが残っていたとすれば、せいぜいPA(Personal Automation)ではないかと思っています。文字通りOJTで教育して育てつつですが、我々は仕様作成に絞ってはいるものの、基幹系までカバーし、本当の意味のEUCを目指しています。
感想4
自分達で使うものは自分達の責任でつくって自分達で直し育てていく、これがあるべき姿
回答4
仰るとおりです。自分たちの作った仕様を実装したシステムは、育てようと思うはずです。

感想5

現場力向上、現場中心主義というならそれを実践すべきですね。たとえ時間がかかっても、当事者である、ユーザの現場の人が納得のいくものを自分達で要求定義すべき。
回答5
現場の方々が、“どうして我々がやらなければならないのか?”という、長年染みついた既存の役割分担意識を、如何にして払拭するかが鍵だと思います。払拭はトップダウンの強権発動では長続きしないので、井戸の呼び水のように、仕掛けをして自噴を待つ、という取り組みが必要ではないかと思っています。時間はかかりますが、確実です。
感想6
ITや方法論をしらない現場の人に対し、真正面からそれを実践させる術を教え、根気強く導いていくやり方。口でいうのは簡単ですが、実践することは大変
回答6
知識欲を持っている人に、その知識を与えることができる状況にあれば、役に立ちたいという方針で臨みました。もちろん、門外漢なので時間はかかりましたが、自前のテキストも作り、『知る喜びなり』の格言通り、知識欲を刺激しつつ褒めながら少しずつ教えていきました。


感想7
時として、一部の抵抗勢力・既得権益者と毅然と対峙し、筋を通していく腕力の背景には、強い正義感と利他の精神
回答7
抵抗勢力、本当に大変でした。極めつけの言葉を発した守旧派の親分(西太后)が何を言ったか?「皆さんの給与を払っているのは私。杉浦先生ではありません!」これを婦長さんがメールで教えてくれました。唖然としましたが、随分正直に言ったもんだと思いました。西太后が持っている生殺与奪の権限を制限、縮小するわけですから、並大抵な抵抗ではありません。私が東京に引き上げている間に、元に戻そうとするわけです。この辺は、小説が書けるほどの情報があります。またの機会にご紹介します。

 

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