スクラッチ開発が当たり前の汎用機全盛時代、ハードウェアを理解し、ソフトウェアを使いこなしたうえで、顧客の業務を調べ、無理無駄を省いて整理した後、その結果を反映した仕様書を作り、顧客の了解を得てプログラムを書いてアプリケーションを完成させ、テストして仕様通りの機能、操作性ができているかの品質を確認!その後、納入、稼働にこぎつけるSEは花形でした。

 

技術的知識はもちろん、コンサルティング能力、ドキュメント、プレゼンテーション、ネゴシエーションの能力を持ち合わせていた最上級の特種情報処理技術者(当時)の資格を持ったSEは(質的なばらつきはありましたが)おしなべてそれができました。しかし、今やオールマイティなSEは少なくなりました。それどころか、SE以前にまともな日本語が話せない、書けないSEとは名乗れない皆さんが増えました。きちんとした文章が書けなくなったのはショートメッセージでのやり取りや、携帯(スマートフォン)を使って話し言葉で情報交換することが多くなってきたことが関係していると思います。特に最近ではLINEのようなものが出てきて、何を短縮した言葉なのか分かりかねる日本語とは呼べない言葉を使った情報交換が当たり前になってきて、日本語力低下に拍車をかけています。OECDの調査では国語を理解する力が15位という成績!

国立情報学研究所教授(当時)の新井先生が書かれたベストセラ『AIvs教科書が読めない子供たち』でも、国語力(読解力)の低下が懸念されています。

SEだけが国語力低下しているのではなく、情報交換の手段が多様化していることを踏まえてなのか、おしなべての傾向になっているようです。

 

以下は、2011年あるところで講演した際に使ったコンテンツです。

つまり、10年以上も前からSEの質の低下、劣化は始まっていたということです。SEの粗製乱造の結果なのかもしれませんが、1990年代前半から始まった生産性向上の名の下で始まったヒアリングすることなく、纏めた仕様を顧客に説明することなく、もちろん仕様書を書くこともなく、出来合いの業務パッケージをあてがうだけの本来SEとは呼べないパッケージSEが増えてきたことに起因するかもしれません。その様なSEにスクラッチ開発が必要な統合情報システムの開発を任せた(任せてしまった)ことがあります。然るべき名前のSIベンダであり、取り纏めが現役時代スーパーSEと言われた友人だったこともありますが、結論から先にいうと大失敗でした。仕様書が読めない(理解できない)SEに遭遇するとは!

 

面白いというか、常識がないなーと思わせる事例を紹介しましょう。眼科疾患の中に加齢性黄斑変性というものがあります。欧米では成人の失明原因の第1位で珍しくない病気ですが、日本では比較的少ないと考えられていました。しかし、高齢化と生活の欧米化により近年著しく増加しており、今は失明原因の第4位になっています。この病気の検査に、患者に見える部分、見えない部分、ゆがんでいる部分などを聞きながら、その結果を方眼紙のチャート(アムスラチャート)に描き込むというものがあります。その作業をシステムに載せる機能を開発していた時のことです。仕様を書いた現場の検査員がバグレポートで指摘していたのは、誤って描き込んだ線を消す処理でしたが、SEは線だけではなく、背景になっているメッシュのベース部分も線と一緒に消してしまったというものでした。

そのSEに確認したところ、仕様書に『背景のメッシュ部分を残して線のみを消去する』と書いてなかったという言い訳・・・呆れるというか可哀想になりました。常識がない?あり得なことですが、仮にそう思ったら『背景のメッシュ部分は消すのでしょうか?』と確認するのが基本です。

予め表示してあるメッシュ画面の上に検査結果をペンで描画するのだから、消すのは描画したその線であるのは明白です。大手のSIベンダと、そのベンダがフィルタをかけて雇った外部SEが担当していましたが、このような常識的なことも理解できないレベルの者でも、SEと名乗っているのが今のIT業界の現状ではないかと思われます。なお、加齢黄斑変性の検査はOCTと呼ばれる検査機器を使って行うのが主流なので、最近ではこの様なアムスラチャートを使った検査がオーダされることはないといわれています。念のため!

 

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