毎日送られてくるIT系メール、大概タイトルを見てゴミ箱に捨てますが、こんなのがありました。

DXブームの今、必要なのは業務プロセスなんだそうです。当たり前のことですが、IT系情報発信源の雄、日経系は知ってか知らずか、マッチポンプ的なことをやります。ERPはその典型でしたが、何回かに亘って成功事例(と言えるかどうか)を紹介したあと、日本でERPが根付かない理由という特集を組んだのには呆れました。有形無形な環境が整っていないということでしたが、散々情報システム関連の記事を書いてきて海外でうまく行ったことが日本で根付かない理由に今頃気が付いたのか?という記事には驚きました。随分面の皮が厚いなぁ~・・・まぁ、それが付和雷同な連中が蔓延るこの分野を商売にしているメディアのやり方なんでしょう。成功事例を紹介して焚き付け、皆さんもそうしないと時代に遅れますよ!といういつものシナリオで特集を組み煽動する日経系メディアです。汎用機全盛時代から日経エレクトロニクスに始まり、日経コンピュータ、パソコン、バイトの各誌を何十年にも亘って購読してきましたが、昔は記者のレベルが高く、編集部にもそれなりの人材がいて業界のオピニオンリーダーとして重みのある情報発信をしていたと思います。それに引き換え、今の日経系IT雑誌のレベルはどうなのか?と思ってしまうのは上述の通りです。

 

専門教育を受け、限られた人しか触れなかった汎用機時代はともかく、今はパソコン、スマートフォン+インターネットの時代、習うより慣れろで失敗しながら/間違えながら覚えるやり方で、次々と機能と操作をマスターしてしまうのには驚いてしまいます。政府の進めるGIGAスクールで配布されたパソコン、タブレットを間違えることに躊躇がない生徒が使いこなしてしまい、先生よりも機能、操作を理解していて先生の立場がないという笑えない現場の実態もあるようです。先生の中でも中高年の先生と若い先生とで顕著な差が出てきているという新たな問題もあります。余談ですが、かなり前のこと、市ヶ谷にある公認会計士協会で情報システムについて講演したことがありますが、事務局からの依頼は『情報システムに関する知識がない中高年の会計士が元気になる講演を』とのことでした。

当時はスマートフォンやタブレットが一般的ではなかくパソコン全盛時代でしたが、パソコンを操作して資料を作ったりプレゼン資料を作ったりする若手会計士に対し、中高年の会計士は、『技術系情報に踊らされず、過去に培った業務知識・経験で勝負すべき』という論調で講演したことを覚えています。後日送られてきた講演アンケートをみると、目的は達せられたと思います。

要するに、IT化の対象となる中身が重要ということです。技術は実現手段でしかありません。最初に紹介したセミナの案内は、散々DX、DXと煽り、❝なかなか進まない日本のDX❞などと更に焦らせた挙句、ここにきてDX化の前に業務プロセスに注目しようという主張。我々実務型のコンサルタントは、過去のブログにも書いたことがありますが、技術ではなく以前から業務を主語にしてきました。

 

我々は、IT系メディアが喧しく騒ぎ立てる時にこそ、冷静になって真偽のほどを調べる習慣を身につけましょう。ITではなくICTと言ったり、ユビキタスではなくIOTとか、普通の情報システムをAIと言ったり、統計解析の結果得られた判定ロジックをAIと言ったり、新語、造語は枚挙に暇がありません。今回のセミナで案内されたDXも同様です。

 

DXとITの違いとして、前者(DX)はデジタル技術が全ての人々の生活を、あらゆる面でより良い方向に変化させるというコンセプトで、デジタル技術を駆使して、企業経営や業務プロセスそのものを根本的に改善していくような取り組みのことを指すのに対し、後者(IT)は情報伝達のための技術という理解をする人もいます。しかし、本当にITを理解している人は、ITを技術だけと捉えず、それを応用した情報システム、しいてはシステム化対象業務のBPRも含んで理解しています。

 

そもそもDX、デジタルテクノロジーを駆使して企業経営や業務プロセスそのものを根本的に改善していくという主張ですが、こんなものは、SIS(戦略情報システム)という言葉が流行った昭和50年代後半、その情報システムは経営を支えるための機能情報を提供する役割を担うとされていました。経営判断に必要な情報を素早く正確に見やすい形で提供することは経営に寄与するに決まっています。情報システムのお蔭で先を見通した正しい判断を他社に先駆けて行うことができれば、経営戦略上、優位に立てることは自明です。つまり、昭和50年代後半の経営戦略を支える情報システム(SIS)というものが既にありました。何を今ごろDXなどという概念を持ち出すのでしょう?また、DXの一つ、業務プロセスを見直すという点も、今頃!という感じです。だいぶ前からBPR(Business Process Re-engineering)という言葉が業務改革の代わりに使われ始めました。このBPR、DXの主張する業務プロセスを見直すということに他なりません。

 

昔使われていた同じことを別の言葉で言い換えて新語を作り、研修、セミナ、書籍、講演で儲けるだけのことです。不愉快なのは、にわかDX専門家の登場です。ERPがブームになった時にもERP専門家が湧いて出てきましたが、同じことです。新語が出てきて、その名前がアチコチで聞かれるようになったときには、その言葉は昔なんと言っていたかを調べることを勧めます。皆さん、新語に惑わされないように!

 

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