江青をはじめとする四人組に執拗に迫害されたものの復権し、実権を握り改革開放政策を指揮したのが中国を飛躍的に豊かにしたのが鄧小平。その時代に中国に派遣され、中国人民銀行、中国銀行のシステム部門要員に技術教育を担当した経験があります。通常はSEがその任に当たりますが、銀行側の担当者からの技術的な質問に答えきれずSOSがあったため、OS設計、性能評価、トラブルシューティングをやっていた経験のある私が派遣されることになった経緯があります。どうしてこうなったか?

毛沢東が実権を握り続けるために、自分の主張に異を唱えそうなエリート層を一掃するという文化大革命を進め、紅衛兵を使って反毛派や知識階級をつるし上げ、投獄処刑しました。40万人(2千万節あり)が処刑されたと言う話や1億人が迫害されたという文化大革命ですが、やり玉にあげられた中にモスクワ大学など海外の大学に留学していた者もその対象になりました。彼らは処刑はされなかったものの、下放運動と称して辺境の地に追いやられ農業に従事させられ、知識というものを忘れさせ、考えるということをさせない(=毛沢東主義に反対させない、反対しようと思わせない)ように仕向けました。

 

しかし、毛沢東が死去し、江青ら4人組が失脚し、鄧小平が台頭して改革開放を進めるに当たって、これら優秀な皆さんが必要になりました。辺境の地から呼び戻された彼らは様々なプロジェクトに配置されましたが、そのうちの一つが国家近代化のための情報システム技術の習得と応用でした。日本の大蔵省、郵政省、総務省を合わせたような機能を持っていた中国人民銀行や外為銀行の中国銀行のシステム部門に配属になった彼らの中にも、その様な経歴の人はいました。知的な活動を抑えられていた彼らは持ち前の頭の良さを発揮し、日本語のマニュアルを片っ端から読破し、理解していきました。その結果、業務主体のSEでは対応できない技術的に深い質問を受ける様になり、銀行側責任者から技術の分かる人を派遣して欲しいという要請があり、これに応えるための派遣でした。

 

OSの仕組み、ハードウェアの構造など基本から理解したい彼らに、システム構築に直接必要のないこれらの知識を教える必要はないという姿勢だった日本から派遣されていたチームのリーダは私に対し『君は技術的好奇心を示す者たちのガス抜きをしていてくれ、我々は余分な質問から解放されるので助かる』とのこと。この様なリーダの姿勢は相手側にも伝わるもので、銀行側の評判は芳しくなく、別件で進んでいた案件は全体を仕切る機械公司(通産省に相当)の反感を買い、富士通に取られてしまいました。この時、通訳担当の友好商社北京駐在員の友人から聞いたのは中華思想でした。中華思想とは漢民族が古くから持っていた自民族中心主義。彼らの文化・思想が世界を導くものであると自負し、異民族もしくは非漢民族を文化程度の低いものであるとするヒトラーのゲルマン民族優越性と同じ価値観を持つものです。我々のチームリーダの言動、姿勢は、彼らの根底に流れる中華思想、特にプライドの高い高級官僚の琴線に触れる看過しがたいだったのでしょう。寝た子を起こした?


私が駐在していた頃の中国のGDPは日本の4分の1、人口が14倍なので一人当たりにすると56分の1でしたが、日本はとうの昔に抜き去り、米国をも抜き去りそうな経済力をつけた今は、中華思想全開!ウイグル族など民族浄化まで行い残虐行為を正当化する始末。

鄧小平が約束した一国二制度だった香港も問答無用で整地してしまいました。独裁者が仕切るとはいえ、中国は2007年に米国を抜いて以降、日本最大の貿易相手国を維持、2020年度は24%。米国の15%を13兆円近く上回っているという状況。経済力だけではなく、世界の工場として培った技術を生かし、世界中から高給で技術者を集め技術先進国にもなりつつあります。

経済も軍事も米国と比肩するまでに成長した中国の根底に流れる中華思想、一帯一路構想を見れば分かる通り、米国に代わる世界の盟主になろうとしている・・・かもしれません。この状況下で、ロシアのウクライナ侵攻を持ち出し、対等な軍事力を持てば対等な外交関係が築けるという安倍さんなど、深く考えないことが特徴の単純な皆さんがいますが、軍事力を後ろ盾にする砲艦外交は昔のこと。中国においては中華思想、ロシアにおいてはスラブ民族の思考、中東においてはイスラム教など、思想、宗教、民俗学などの研究者の知恵を外交に反映すべきではないかと思います。

 

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