私の友人に片貝孝夫さんというパソコン黎明期からの業界人がいました。残念ながらお亡くなりになりましたが、生前は様々なシーンで助言をいただいていましたが、メールでもやり取りしていました。その一つが業務改革についての以下のメールです・・・

 

業務改革は、外の目が必要ですね。杉浦さんは待合室に佇んで、患者さんが待合室でボソボソ話す病院の悪口をメモしていたそうですね。改革は原点に立ち戻らなければできませんよね。

 

これに対して以下の返信をしました。

仰る通りで、中からの改革は望み薄です。無意識に呼吸するのと同様、今までのやり方が染みつき、体と手が動いてしまう状況下で自らの意志でパラダイムシフトなどできるはずがありません。しがらみがない外部の目が必要な所以です。患者さんの待っている中に患者を装って座り、皆さんが話をしているのを聞くことで真実が分かります。頻繁にテレビで紹介されていたディスカウント会社のコンサルの時は近くの床屋で散髪してもらいながらそれとなく評判を聞いたこともあります。いわゆる近所の評判です。こういう地道だけれど今までの方法では発見できなかった忌憚のない真摯な意見、要望を反映することで、それまでのパラダイムを変える改革、改善ができると信じ、そうやってきました。これからもそうします。

 

アンケートのような形で意見要望を聞き取り、問題点を洗い出す方法もありますが、臨場感がなく実際に観察するのとでは情報の質が違います。選択式回答の中にどちらでも良いと思われる中庸のものを用意すると、往々にして心理上、無難な選択としてそれが選ばれることがあります。
Q:現状の仕事の仕方に問題はありませんか?

に対する回答として次があるとします。

A:□ある/□ない/□どちらでもない(支障は感じない
3番目が過半数を占めることはアンケートを取る前から容易に想像できます。また、☑あるとした場合に『それはどんなことか』を記述させる設問が続くと、目立ちたくない/問題を起こしたくない/当事者になりたくないという日本人の気質もありますが、□ある☑あるとする人は確実に減るでしょう。アンケートを例にしましたが、この一点だけを以ても問題の発掘は相当難しいことだと分かります。特に人に起因することや、長年に亘って染み付き、空気のようになっている仕事の仕方、指揮命令系統を短兵急に解決できるはずがありません。どうして無駄なのかを事例を挙げて丁寧に説明しても受け付けない有形無形なバリア仕組みにもにも染み付いているのが現状です。そんな中で問題を洗い出し、解決して整理整頓して無理無駄のない一連の作業にするには、片貝さんのメールにあったように現場に入ってつぶさに観察するしかありません。経営層はもちろん、管理職でもなく現場です。それは経営層/管理職が現場の細部に亘って情報を得ているとは限らず、経営層は現場の作業実態を知らないからです。もっとも、経営層や上級管理層は、現場の日々の動きを事細かに知るよりも、組織全体を俯瞰して会社を舵取りする役割なので現場の事細かなことまで知らなくてもサマリされた情報があればそれでいいわけです。しかし、私のような業務改革やそれを踏まえたシステム構築をするコンサルタントは、経営層や管理職の方ばかり向いていては具体的な仕事になりません。

 

病院に於ける私のヒアリング先は下図の右側でしたが、外来の看護師さんと忌憚のない意見交換をする中で彼女たちが患者さんから受けるクレーム、要望を知ることができました。

受け止め方は看護師さんの性格にもよるので、一人ではなく、できるだけ複数の看護師さんに聞くようにしましたが、患者さん達が待合室で待っている間に交わされる会話の中にある、遠慮のない本当のクレーム、要望にはかないません。検査、診察、会計を待っている患者さんの中に患者の振りをして混じっていると聞こえてくるのは、『あの人(医師、看護師、検査員、会計課員)は態度が横柄、口の利き方が悪い』などというマナーの問題から、待ち時間の長さ、仕事の手順などまで実によく見ていると感じることが多くありました。それらを吸い上げ、仕様に反映しましたが、手間がかかるこの様なやり方をするSIerはいないでしょう。一つは儲からないこと、もう一つは事細かな仕様を業務分析をしながら作りあげるということをせず、出来合いの業務パッケージを当てはめるので、この様なつぶさな現場観察はやらないという時代になったということかもしれません。システム導入コストに見合う効果が感じられないのは、この辺のことが原因ではないかと思うことしきりです。

 

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