気になった記事を切り抜いてストックしたものを見ていたら、自治体システム統一、道険しというタイトルの記事(朝日2021/5/30)を見つけました。

デジタル庁が新設されましたが、掛け声とは裏腹に100年以上に亘って省益、既得権を重んてきた省庁が、情報システム(IT)で横串を刺すことに積極的に加わるとは到底思えず、面従腹背になることは自明です。彼らの意識改革ができるか否かにかかっていますが、一世紀以上に及ぶ官僚の世界を塗り替えることができたら、コロナ対策で後手後手に回る感が否めない菅さんの起死回生の浮揚策になるでしょう。できないと思いますが・・・

 

福島原発の汚染水を希釈して海に流すことで揉めていますが、廃炉と汚染水対策は経産省、除染と中間貯蔵は環境省、避難指示解除は原子力対策本部、損害賠償は文科省、帰還環境作りは復興庁という具合に指揮命令系統がバラバラなうえ、境界領域での采配はどこが執るのかが曖昧なまま19兆円もの復興予算がつぎ込まれ、10年経ちますが未だに先がみえません。そもそもゴールは何かが定められているのか疑問です。復興特需で儲かる業界と政治家、省庁がお互いに縄張りを主張し、50年近くかかっても未だに完成しない八ッ場ダムのように、完成させないで(終わりにしないで)事業を継続し続けたい皆さんが多数いるのでしょう。本来、福島原発の後始末は、それを担当すべく新設された復興庁が仕切るべきですが、その権限はなく上述のように権利の分捕り合戦の様相。これでは上手くいくはずがありません。国民の約8割が現状での五輪開催に反対しているなかで、強行開催する剛腕菅総理なら、全ての権限を復興庁に集約できるのではないか?まずは、これで実績を見せてもらいたいものです。

 

話が横道にそれてしまいましたが、復興庁の話を持ちだしたのは、デジタル庁も同じことにならないかと懸念しているからです。デジタル庁のホームページによれば、

だそうです。これは誰でも描ける絵に描いた餅的スローガンですが、復興庁創設の際にもバラ色の構図がありました。しかし、実態は各省庁に分断され、復興のイニシアティブは執れないまま現在に至っています。復興相になった政治家も軽量級ばかりなのを見ても、その位置づけがわかります。今回、ITはこの人と言われ、菅さんと仲がいい平井さんがなりましたが、最初からきな臭い言動で物議を醸しているようでは先が思いやられます。

デジタル庁がやろうとしていることに他の省庁がどれだけ絡んでいるのかを示す絵がありますが、復興庁並みなことがよく分かり、上手くいかないことも想像できます。

それはともかく、新聞記事で見つけたデジタル庁が目指す自治体システム統一ですが、どの様な計画でしょう。バラバラだった地方自治体の情報システム今年5/13に成立した地方自治体情報システム標準化法に基づた標準規格に沿って、全国1741自治体(市区町村)が共通の情報システムを作ると言うものです。現状では、住民基本台帳、選挙人名簿、年金、介護、社会保険、住民税などのシステムを各自治体独自に導入していますが、これを統一することで開発費の削減、保守運用の効率向上を目指すとされています。狙いはその通りで、目の付け所は良いのですが、これは自治体へのシステム導入が始まった昭和40年代後半から言われ続けてきたものの、できなかったことです。それが強権で知られる菅総理の剛腕でできたら、これはこれで褒められるべきでしょう。

 

規模の違いはあるものの自治体毎に必要とされる業務が違うということはなく、同じです。考えてみれば、法律に従った業務を行っているので、必要な機能は同じはずで、ユーザインターフェイス(画面レイアウト、画面遷移、操作方法etc)も同じになるべきです。むしろ同じにすべきことなので、デジタル庁が目指す基本仕様書を作って同じシステムにすることは当然のことと言えます。しかし、似て非なる情報システムが1741の自治体に入っているのが現状です。統一された仕様書がなかったことが最大の原因ですが、SIベンダは自社の自治体向けシステムを自治体の都合に合わせてパラメタを変える程度で基本的に同じ仕様(機能、操作性)のものを提供しています。つまり、複数の自治体システムSIベンダを一社に絞り、そのベンダのものにすることができれば、それで終わりです。しかし、別ベンダのシステムになってしまうところは、今まで使い慣れたシステムから、初めて出会うユーザインターフェイスの別システムになるのはできるだけ避けたいと思うのは理解できます。

 

実行可能解はなんでしょう。それは日本医師会が仕様を決めて作った医事会計システムのORCAが参考になるでしょう。医事会計業務は医療機関毎に違うのではなく、法律で決まったルールに従って処理されます。つまり、全国同じ業務で例外はありません。それを各社入り乱れて医事会計システムを開発し、医療機関に納入しています。医療費改定などの保守も各社ごとにやっています。ORCAはこの無駄を解決しました。当初はトラブル続きで評判が悪かった使えないと烙印を押されてしまったORCAですが、今や多くの医療機関で使われるまでに品質が向上しています。電子カルテとのやり取りのインターフェイスも取れるようになっているので、治療、処置、手術、入院などの点数が発生するものは全て漏れなく加点、請求することができます。全医療機関が採用した方が良さそうなものですが、SIベンダの囲い込みがあり、医事会計システムだけORCAというわけにはいかないのが実情で、従来通りSIベンダの医事会計システムを使い続けているところもあります。このORCAはなんと無償ですが、それでもSIベンダに丸投げしたい自治体が多く、今以上には浸透しないと思います。デジタル庁が自治体向けシステムの統一仕様(標準仕様)を作り、普及させたいなら、仕様だけではなくそのシステムを作り無償提供することを勧めます。財政がひっ迫している自治体が多いので、思いの他、普及するかもしれません。

 

※質問はosugisama@gmail.comにどうぞ。
※リブログを除き、本ブログの無断転載、流用を禁じます。