論語にある言葉は様々な示唆に富んでいます。本当に人望、実力、実績のある人の下には、誇大宣伝しなくても、ニンジンをぶら下げなくても人々がはせ参じ、そのために自然に道ができるという桃李は好きな言葉です。中学の教科書に出て来て誰でも知っているのは温故知新以前学んだことや、昔の事柄を今また調べなおしたり考えなおしたりして、新たに道理や知識を得るという意味ですが、新たな道理や知識を得るのではなく、中身を調べると昔言っていたことを別の言葉に言い直しているだけの場合は少なからずあります。

 

(1)アジャイル

開発期間を早くするというアジャイルもその一つ。この言葉、昔はRAD(Rapid Application Devlopment)と言っていたものと全く同じコンセプトです。アジャイルアジャイルと連呼する知り合いがいますが、昔(歴史)を知らないことを暴露していることに気が付かないのはいささか可哀想。RADが叫ばれる前には、CSAEツール4GLなどの開発支援環境も研究され、一部は実用化されました。私も下流CASEツール+4GLのような、パラメタ生成環境を作ってビジネスショウに出展した経験がありますが、話題を集めたものの浸透はしませんでした。未だ1ステップずつコーディングすることが主流だった1980年代後半のことです。開発需要が多かった当時、如何にプログラムの生産性を上げるかに知恵を絞り、基本的な機能を部品化するなどの工夫をしましたが、プログラムを自動生成するような試みはあり、プロトタイプはありましたが、実用化に至ることはありませんでした。どううしかた?業界業種業務向けの出来合いの標準仕様で作られた業務パッケージを使うことで開発期間を0にするという方法で対処するようになりました。せいぜいパラメタで設定変更する程度なので、パッケージ導入=稼働になり、これ以上、早いシステム導入はありませんでした。この様な歴史を知っていてのアジャイル礼賛なのか、騒ぎ立てるメディアの記者たちの経験を聞いてみたいものです。

 

(2)BPR

以前は業務改革と言っていたものが、Business ProcessをRe-engineeringするというBPRに名を変えた途端、何か新しいもののように取り沙汰されましたが、改革とは本来どうあるべきを前例に捉われず0ベースで見直すという意味。コンセプトはBPRと同じです。BPRを伝授するセミナ、研修などが開かれ、にわかBPR専門家が講師となって半日程度の講習で数万円も取るのには呆れます。さらに言えば、業務改革という言葉が出回る前は、情報関連図作成の過程で同じようなことをやっていました。情報関連図を描いて俯瞰することで、無理無駄、隘路を発見、これを整理整頓して情報の流れを整え、過不足ない機能(処理)にします。その後、システム化して効果のあると思われる部分をシステムに載せるという段取りでした。業務改革もBPRもシステム化を必須とはしていませんが、大概、システム化をする際に当該業務をその対象にします。情報関連図、業務改革、BPRと呼称は変わっても本質を理解していれば、戸惑うことはありません。要は、ブームになっている言葉に踊らされず、昔は何と言っていたかを調べるクセをつけましょう。DFD、ER図などという時代もありましたが、元をたどれば同じです。

 

(3)IOT、ユビキタス

IoTが登場したのは数年前です。ITの時のIはinformationでしたが、IoTのIはInternetのIだそうです。Internet of Things・・・新しい言葉を無理矢理作り出したと思いますが、ピンと来ません。そうです、これは、昔東大の坂村教授がユビキタスと言っていたものと同じと思って間違いないでしょう。クラウドやビッグデータではそろそろ新鮮味がなくなり、顧客が付和雷同しなくなったので、新しい言葉を考えて煽らなければ・・・そうだ、昔ブームになったユビキタスを言い換えてみよう!当時よりもユビキタス環境が整っているのでイケそう、と思ったのではないか?誰が? IT業界、コンサル業界が仕掛け、それに新しい煽動ネタを捜していたメディアが乗ってきた、という構図です。バズワード(もっともらしいけれど、実際には定義や意味があいまいな用語のことで、英語では特定の期間や分野の中で流行った言葉)の印象が強いです。IT、ICT、IoTに限らず、商売のネタにしようとこれからも新しい言葉が意図的にばらまかれますが、踊らされないように気をつけましょう。ポイントは、この考えは昔なんと言われていたか?です。
 

(4)DX

DXとは、Digital Transformationのことだそうです。なんでもデジタル技術が全ての人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるというコンセプトだそうです。このコンセプト、デジタルテクノロジーを駆使して企業経営や業務プロセスそのものを根本的に改善していくような取り組みのことを指すそうですが、これはITを利活用して住みやすい社会を作ろうとか、経営の効率化を図ろうとか、生産性を上げようなどといっていたことどこが違うのでしょう。ITの意味を単純に(直訳して)情報伝達技術などと理解していると発想が広がりません。もちろん、IT化とは、それを行う前に対象となる業務内容、業務を構成する機能&情報などの調査・分析が付いて回ります。結局、やろうとしていることは同じことで、他の新語と同様、これを面倒くさい定義をして新語を生みだし、商売のネタにするだけのことではないかと思います。先日、ある医療系コンサル会社から

という案内がきました。医師の働き方改革に関連するDX化を私にレクチャしてくれるそうですが、DXと呼称するようになる以前に、この種のことは既にやってきたので、丁重にお断りました。

歴史を知らず、視野が狭く、底も浅く、実務で汗をかいたことがなく、机上で仕事をしていた頭でっかち評論家、学者、コンサルタントの皆さんは、もう少し歴史を勉強し、汗にまみれ泥をかぶり地に這いつくばって実務を経験をした方が良いでしょう。

 

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