ジョブディスクリプションなる新語が出てきて、セミナなども開かれているようです。ジョブディスクリプション(job description)」とは、職務の内容を詳しく記述した文書のことだそうで、日本語では職務記述書と訳され、セミナの案内を見かけるようになりました。

~~~~~~~~~~~~

・日 時 2021年 6月 23日(水)13:00~17:00 (開場 12:50)
・配信方法 Zoomを使ったWeb配信セミナー

・講 師 ××
・主 催 ○○

・受講料:一般価格:44,000円(税込)

~~~~~~~~~~~
セミナ紹介の一部を引用するとジョブディスクリプションは、以下のように書かれています(原文)。~~ここから・・・ジョブディスクリプションは、欧米の企業では日々の業務はもちろん、採用をするにも評価をするにもなくてはならないきわめて重要なものです。ジョブディスクリプションに記載される代表的な項目は、職務のポジション名、目的、責任、内容と範囲、求められるスキルや技能、資格など。特に職務内容と範囲については、どのような業務をどのように、どの範囲まで行うかといったところまで詳細に記述されます。~~ここまで。

私は、今までシステム構築を前提とした業務改善、改革を複数の業界業種で行ってきましたが、どの企業でも例外なく、このジョブディスクリプションに相当する業務が詳細に記述(定義)された文書はありませんでした(現場で使う作業手順書はありました)。その業務は何をするものなのかを定義する業務マニュアルを持っているところはありましたが、業務を具体的に遂行するために必要な機能(処理内容)、作業手順、具体的な作業の内容などを細部に亘って書いてあるところはありませんでした。そもそも、業務マニュアルそのものも更新されることなく作った時のまま飾ってある品揃え的なものという感じでした。

 

形式知ではなく暗黙知の多い日本の仕事の仕方の特徴かもしれませんが、分掌が明確でない、あるいは形式的に書かれていて、実際には凹凸があるのが一般的で、業務の引き継ぎでも欧米のようにジョブディスクリプションを渡して終わりというわけにはいかないのが日本的仕事の仕方と言えます。これに対し、欧米の企業がジョブディスクリプションを作成するのは、職務について明確に規定し、あいまいさを排除するためで、日本とは働かせる側、働く側の意識の違いのようなものがあると言えるかもしれません。もちろん、ジョブディスクリプションがあれば、あれもこれもとか、ついでにではなく、業務(仕事)として定義されているもの以外はやらなくていいので、気を利かせるとか忖度するとかの配慮が不要になり、割り切って仕事をすることができ、気が楽です。また、任せた仕事がきちんとできているかが定量的に分かるので、人事考課がし易くなることは容易に想像できます。採用する際の基準も明確になり、求人情報が正確になると同時に、応募する方も要求される知識、経験、能力が詳細に分かるので、ミスマッチがなくなります。

これまで、日本企業の多くにジョブディスクリプションに相当するものがなかったのは、欧米企業の賃金制度が基本的に職務給であるのに対し、日本では職能給が普及していたことが大きな理由。長い間、年功序列、終身雇用制だった日本の雇用制度にマッチしたこの職能給制度、国際化が当たり前になりグローバルな人材登用にならざるを得ない欧米企業に伍して戦う規模の企業では、ジョブディスクリプションが必要になってきたということでしょう。

 

しかし、セミナ報告書を書くことになる参加者の立場、資質にもよりますが、前述のような半日のセミナでジョブディスクリプションを学んだところで、何十年も続いてきた職能給制度を変えるだけの理論武装と具体的な実行可能解を作れるようなるとは到底思えません。経営幹部からジョブディスクリプションとは?と聞かれた時に戸惑うことがないよう、教養として知っておく程度ではないかと想像します。
そもそも、苦労して詳細なジョブディスクリプションを書き上げたところで、細部に亘って詳述されていればいるほど出来上がった時には既に古くなって(変わって)いるものが出て来るはずです。同期していないことが往々にしてあるシステムの仕様書とプログラムの改編と同じと言えば理解が早いかもしれません。

 

ジョブディスクリプションの前に、まずは現状の業務マニュアル(あれば)を現状に合うようにメンテすることを勧めます。

 

※質問はosugisama@gmail.comにどうぞ。

※リブログを除き、本ブログの転載、流用を禁じます。