昨年の今頃ですが、『我が国の技術を以てすれば年内に国産ワクチンはできる』と豪語(放言?)していた安倍前首相。例によって根拠なく、フォローもしない楽観論をぶち上げる安倍さんなので話半分どころか何も起きないと思っていた人も多いことでしょう。その安倍さん、新聞(朝日2021/5/5)によると、昨年の今頃、アビガンをコロナ治療薬として承認を目指すなどとも発言していたそうです。そのアビガン、その後どうなったのでしょう。今日はこれをブログのネタにします。

長年病院コンサルをしてきましたが、注射、手術など必ず人がやらなければならない作業を除いて院内すべての業務をシステムに載せる統合情報システム開発のプロジェクトを率いたことがあります。治験業務もシステムに載せるよう仕様(治験コーディネータ作業)を作成しました。私は、言葉は知っていたものの具体的な治験業務についてはまったくの門外漢。治験コーディネータから業務の詳細につき、詳しく説明を受け、流れを纏めたのが下図です。


これはシステムに載せるためにプロジェクトリーダが知っておくべき最小限の知識でしたが、本当に効いているのか、効いているとしてもその被験者にたまたま効いただけではないのか、普遍性はあるのか、あるとしたらその有意性はどのくらいの確率なのか等々、奥が深く、厳密なものであると感じたものです。なかでも、プラセボ(プラシーボ)はありそうなことだと思いました。

プラセボ(プラシーボ)効果とは、ニセの薬(偽薬)を処方しても、薬だと信じ込むことにより何らかの改善がみられることをいいます。高名な先生が、患者に薬を処方する際、これは『最近、特効薬として承認された画期的な薬です。あなたは運が良いですね』などと言って“砂糖”を飲ませると、患者はその気になって治ってしまうというものです。これはこれで幸運ですが、多くの人に一定の確率で効果を発揮するようなものではありません。暗示にかかり易い人だけに効くものかも知れません。従って、新薬の効果を確かめる治験は慎重に進める必要があります。治験コーディネータしか知らず医師にも教えないこともあります。医師もその薬が治験薬だと知っていると、無意識のうちにこれから確かめようとする治験薬の効能を知ったうえで観察したり評価したりしてしまう懸念があるからです。これでは本当に効いているのか否かがわかりません。治験コーディネータがデザインレビューの最中『これではダメ!』と気づき、ガイドとメッセージ、選択肢を修正したヶ所が何ヵ所もありました。そこまでやるか?やる必要はあるのか?という素朴な疑問がわきましたが、治験コーディネータがその必要性を専門用語を使わず常識を使って分り易く説明してくれました。治験中にドロップする被験者が出ないように、来院フォローのための仕掛けなど治験を行うために必要な関連部署との情報交換、確認する他の機能を搭載して治験業務システムの仕様ができました。

 

その治験コーディネータがいう医師にも教えないこととは、上述のように医師がその薬が治験薬だと知っていると、無意識のうちに治験薬の効能を知ったうえで患者を観察したり評価したりしてしまう懸念があるということですが、昨年の今頃話題になっていた細胞に入り込んだウイルスの増殖を抑える効能を持つ富士フィルム(富山化学)のアビガンをコロナ治療に使えるのではないかということで治験が始まりました。

アビガンを治療コロナ治療薬にする案は、対策に苦慮する安倍首相(当時)が、厳密な審査を受けなければ承認されない治療薬なのに、『一般の知見とは違う承認の道もある』という発言をし、一時期期待されました。しかし、朝日新聞が入手した議事録によれば、富士フィルムが提出した治験結果を審査する厚生労働省の専門部会(医薬品医療機器総合機構/PMDA)では、①エビデンスがない、②分析方法、データの取り扱いに信頼性がないなどと言う厳しい意見や、緊急事態という名でいい加減に済ませることはできないという安倍さんの発言に異を唱えるような意見まで飛び出したとのこと。権勢をふるった安倍さんが首相交代になり、その重しが取れたせいか、まさかの忖度なしの頓挫です。

 

この時問題になったのが、富士フィルムの治験では医師がその患者がアビガン処方したか否か知っている状態で治験を行ったことです。この単盲検と呼ばれる方法では、上述のとおり無意識のうちに治験薬の効能を知ったうえで患者を観察したり評価したりしてしまう懸念を払しょくできません。感染者がPCR検査で陰性になるまでに要した日数の中央値が11.9日に対し、治療薬と偽って偽薬を飲ませた患者のそれは13.7日。アビガンを飲んでもらった患者はそうでない患者よりも2.8日早く快癒したことになりますが、これが有意な差であるのかは、単盲検ということもあり、確認できないという医薬品医療機器総合機構/PMDAの意見。医師も知らないで行う信頼性の高い二重盲検にしなかった理由は、急変しやすいと言うコロナ患者の万が一の事態に迅速に処置できるようにと考え、アビガンを飲ませていない患者、飲ませた患者が分かるように考えてのこと(言い訳)だそうです。一理ありますが、急いては事を仕損じるの例え通りになってしまいました。

 

もっとも単盲検は、安倍首相(当時)の指示ということもあり、忖度した内閣府、厚生官僚が富士フィルムを急がせたのではないかという気がします。同社はこの4月から二重盲検での治験を始めたようですが、急がば回れ!です。

 

※質問はosugisama@gmail.comにどうぞ!

※リブログを除き、本ブログの無断転載、流用を禁じます。